金貨四十枚と姉
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けるわけがない。せいぜいが、横目で見ながら「場違いな人間はどこかへ行け」と思われるぐらいだろう。
あたしは俯いた。多分、あたしのやり方は失敗だったのだ。女を買うどこかの店の戸を叩いて、あたし自身を売りたいと言うべきだった。そうすれば少しは治療費の足しになるぐらいの額を握り締められたかもしれない。今すぐ金貨四十枚は無理でも、働いて返せるだけの額を。
ううん、今からでも遅くない。そうするべきだ。こんな見世物みたいな状況から、早く立ち去るべきだ・・・。
そんなことを考えながら地面を見つめていたあたしの視界に、ふいに大きな革の靴が飛び込んで来た。だいぶ上等そうな、でも長く履きこんでいそうなその靴のつま先は、両方ともあたしを向いていた。あたしの目の前に、その人間は立ち止まっているのだった。
ざわりと周囲の人間のざわめく音が聞こえる。まるで、あたしの前にその人が立ち止まったのがありえないとでも言うように。
「・・・いくら」
押し殺したような声が聞こえた。まるで怒りを抑えているような。てっきり何か言われるとしてもこんなとこにいるんじゃないという苦情もしくは忠告だろうとのんきに考えていたあたしは驚いた。この人、今…何て言ったの?思わずその革靴をまじまじと見てしまう。
「・・・え?」
「いくらだ、とそう聞いている」
聞き返したせいか、声のイライラ度数が上がってる…。なんだかわけのわからないプレッシャーを感じながら、あたしは答えた。しかもなぜか敬語で。
「金貨、四十枚、です・・・」
「金貨、四十枚?」
男の語尾が不快そうにあがる。ああまた高すぎるって言われるのか・・・。でも、だって仕方ない。ノエルのためだ。それにしてもなんでこの人は初めからこんなに怒っているのか摩訶不思議だ。
「買おう。来なさい」
「…えっ?」
あたしは予想外の言葉に思わず聞き返した。しかし男はそれに返事をすることなく、あたしの腕をとると歩き出した。あたしは思わず顔を上げた。そして息が止まるかと思った。
男の足は速い。あたしは手を引かれるがまま、ただ小走りでついて行くしかない。周りの景色がぐんぐんと後方に流れてゆく。誰もが彼を見て驚いたように道を譲る。「えっ、ラトゥミナ族・・・」そう声が聞こえたかと思えば遠ざかってゆく。夢、そう夢のようだ。現実味がまるでない・・・。あたしの長い髪と、男の背の半ばまである赤い髪が、風と共に棚引いてゆく。
繋がれた手が、ただ熱かった。
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