金貨四十枚と姉
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を貸そうなんて豪胆な人間がいるはずもないのはわかりきっていたことだった。借りるのがだめなら、一体どうしたら・・・。
ぶつぶつ呟きながら、当てもなくただ考えるために歩き続けたあたしは、ふと周りの景色が変わっているのに気がついて立ち止まった。
どれだけ悩んで歩き回ったのか、いつの間にか日は落ち茜色に景色を染めている。その中に、ぽっと灯った黄色い明かり。
目に入るのは、こんな田舎町に不釣り合いの、まるで東国にでも行ったかのような鮮やか・・・だったであろう朱塗りの柱。年季が入って色は褪せているけれど、それでもひらひらと衣を靡かせて花のような女官が顔を出す幻が見えるようだ。
夕焼けと相まって、その風景はまるで厚く絵の具を塗り重ねた一枚の絵画のようだった。あたしは暫く、その見慣れない建物に見惚れた。
・・・噂には聞いていた。町にはこういうお店があると。
無意識でもこんなところにたどり着いたのは、もしかしたら神のお導きかもしれない。
そう、選択肢などはじめから一つしかないのである。あたしが持っているもので、売れるものといえば、たったひとつだけ。
はあああ〜〜とあたしはまた大きなため息をついた。
ひらりと想像に違わない華やかな衣を纏った女の子が明かりを持って出てきて、あたしを見つけて不思議そうな顔をする。かろんと音を立て、持っていた提灯を入り口脇の黒い金属の輪っかに吊すと、あたしを気にしながらも中に戻っていく。提灯には達者な崩し字でこう書かれていた。『夢廊』。
あれだけ眩く美しかった太陽は地に吸われるように、その存在を急速に無くしてゆく。そして闇の訪いと共に、ぽつりぽつりと川のように明かりが灯る。どうやらここいら一帯は、同じようなお店が集まった場所のようだった。あたしは光のあたらない路地裏で激しく高鳴る心臓を押さえ、呼吸を落ち着けていた。
いつしか路地は昼間のように光が満ち、活気が溢れていた。どこから出てきたのか、驚くような数の人間が、笑い、酒臭い息を吐きながらよろけるように道を往く。その袖を可憐な女が引く。引かれた男は、二言、三言女と言葉を交わすと、建物の中に消えてゆく・・・。
情報としては知っていても、実際に目にしたことのなかったあたしの衝撃は凄まじかった。
男なんて、男なんて・・・。
「・・・お、おォ?なんだぁ?こんなところで。ニイちゃんいくらだァ?」
何に対してかわからない怒りに震えるあたしの耳に、熱に浮かされたような言葉が飛び込んできた。それがあたしにかけられた言葉だと気づくのに時間はかからなかった。横顔に受けていた光が
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