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ダンジョンに出会いを求めるのは間違っていた。
閑話 第三話
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たよ……」

 囁く程度の音量だけど、周りがあまりにも静かになっているせいで大きく聞こえた。きっと、それはクレアの怪我のことを忘れて、彼女の偉業を誇らしく思ったからだろう。
 クレアの声は取り囲む冒険者たちの耳にも入り、波状にどよめきが走る。クレア自身がバックパックを背負っていて、彼女の傍には私以外の人は誰もいない。つまり、クレアは階層主を一人で倒したということがはっきり解ったからだ。

 胸いっぱいに広がる嬉しさと、堪りに堪っていた心配が遂にはち切れて、私の両目からぼろぼろと涙が零れてクレアの髪を濡らした。

「よくやったね……っ、本当に、よく頑張ったよ……っ!」
「え、えへへ……」

 へにゃんと笑ったクレアは、とうとうぽとんと頭を私の肩に預けた。それっきり動かなくなったけど、クレアの胸が打つ鼓動と耳をくすぐるような小さく規則的な息から、彼女が文字通り全力を尽くしきったことが解った。

「本当に、親不孝な子だよ……」

 だらしのない笑みのまま意識を手放したクレアの頭をぽんぽんと叩き、バックパックを下ろさせておんぶする。脱力している分クレアは重かったけど、それがクレアの中で含蓄していた努力だったなら、私は喜んで背負う。それがクレアの支えになるなら、喜んで。
 気を利かせた衛兵がクレアが持っていたバックパックと槍だった残骸を持ってくれて、私の後をついて来る。

 それから思い出したように、その場にいた冒険者たちはまばらに拍手をし始めた。一秒重なるごとに倍になっていき、最終的にはよく頑張ったと賞賛と歓声を上げる者も加わり、バベルからあふれるほどの拍手喝采が一人の少女に送られた。

 その少女は小さな寝息を立てながらも、ほんの少しだけ口角を更に緩めたのだった。



 後日、ギルドの掲示板にランクアップした者の名前がリストアップされていた。そこに記載されていた名は唯一つ。

 【セレーネ・ファミリア】クレア・パールス Lv.1→Lv.2 二つ名【不屈の奉仕者/セミヨン】

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