閑話 第三話
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を迸らせ、ビクンと体を痙攣させた。確かな手ごたえに自覚なしの笑みが零れる。
だが深追いは禁物だ。「これいけるんじゃね?」という予感こそ自身の隙になるのだ。身を以って知っている私はずっと穂先を引き抜いて、素早く奥の通路へ駆け込んだ。
ブシャアアア、と少なくない血が地面に吐瀉される音が聞こえる中、私も左脇を見て絶句する。
痛みを忘れていたのではなく、傷が深かったせいで痛覚が正常にはたらいていないだけだった。傷口は黒くなっており、見るも無残な有様だった。幸い左腕は浅く切っただけのようで、出血量は少ない。
悲しいことに、私は傷を見慣れている。伊達に体で覚えてきたわけじゃない。それだけ私は怪我を負っている。今だって右脇には大きい青痣が出来ている。
腰に巻きつけてあるポーチのポケットから回復薬を取り出し、蓋を弾いて中身を一気に飲み下す。仄かな柑橘系の風味が口の中で広がるが、血の味が充満する口内では気持ちの悪い味にしか感じない。
今更になって再び激痛が浮き彫りになり、飲み込んだばかりの回復薬を戻しそうになるが、必死に口を押さえて我慢する。
びっしりと額に汗を掻き、インナーは体に貼りつく。蟻の絶叫を聞きながら自身の脇腹を確認すると、回復薬の効果が早くも表れ傷口が目に見えて塞がっていく。これで血の跡で私を辿られることは無くなるはずだ。
少し動くだけで鋭い痛みが突き抜ける体を槍を杖代わりにして起こし、壁に手を付けて立ち上がる。膝が笑っているけど、走れないわけじゃない。左腕も回復しつつあり槍を握れる。体力は尽きかけているはずだけど、アドレナリンが分泌しているせいか実感することはない。
さあ、どっちが蟻地獄に嵌ったのか、確かめようか。
◆
今まで生きてきた中で、これほど走ったことは無い。私は息も絶え絶えになりながら、神殿のような造りをするバベルに到着した。
アパートからバベルまでこんなに距離があるなんて知らなかった……。私の足が遅いのもあるけど、走ってもかなり時間が掛かっちゃった……。こんな距離を、あの子は毎日行き来してるなんて知らなかったよ……。
やっぱりクレアはえらい子なんだと強く再認識しながら入り口に続く階段に崩れ落ちるように手を付く。まだ日が落ちていないから冒険者の行き来が激しく、通路の端で疲労困憊の体でいるだけで目立つのに、神威のせいで余計に目立っている。
『おい、あれ汗で透けてねぇか?』
『マジかよ!?』
『うおおお!! あと少し、あと少しで見えるのに……ッ!!』
何やら不埒な囁き声が聞こえるけど、今はそんなことに構っていられるような状況じゃない。いつ家を出たのか解らないけど、クレアがダンジョンに潜ろうとしているんだ。それも|迷宮の弧王《モン
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