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ダンジョンに出会いを求めるのは間違っていた。
第十五話
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が遥か彼方へ遠のいた。

 彼女に残ったのは、漠然とした意識だけ。時の流れすらも置き去りにするほど圧縮された意識の中にあった何が、ゆっくりと首を擡げた。

 何かは意識のスクリーンにあらゆる記憶を映し出した。そこには、前世で救えなかった数多くの人々が死んでいく瞬間だった。もう嫌だ、自分が強くなって救えるのならいくらでも強くなりたい。トラウマのフラッシュバックだった。

 またか、とレイナは嘆いた。

 自分の至らなさゆえに、また自分は誰かが死んでいくのを眺めていなければならないのか。むしろ今までよりもっと質が悪い。訳があったとはいえ、自分の本性を隠して続けて躊躇ったから彼女ナチュルを死の淵際に追いやってしまったのだ。

 何かが意識という殻を、内側から徐々に、徐々に、さながら卵から孵る雛鳥のように破っていく。

 そして、何かは崩潰した意識に目をくれることもなく、その意思を存分に伸ばした。

 生ける伝説クレア・パールスの、本当の意味での覚醒がなされた瞬間だった。



 レイナの目が変わった。およそ十三歳が浮かべてはならないような、どこまでも静謐で研ぎ澄まされた光が、レイナの瞳を湛えていた。
 レイナの中で何かが変わってからコンマ一秒とも経っていない。そして、ほんの少し前まで押し止めていた衝動に身を委ねた。

「【ヒリング・パルス】」

 それは、後に《神の恵み》と謳われた最高レベルの治癒魔法だった。
 体に蓄積したダメージの九割を回復させ、体を蝕むあらゆる異常を治癒、加え消費精神力によってレンジを広げることが出来る、クレア・パールス専用魔法。更に彼女クレアの場合発展アビリティ【癒力】によって実質蓄積したダメージ全てを回復させることができる。
 
 あらゆる治癒魔法にどんな状態でも完治させる、なんて利便性が高すぎるものはない。せいぜい五割程度の回復しか見込めず、現在オラリオ最強の魔道師ですらも不可能の芸当だ。
 それを、たった魔法名を発するだけで実現してしまう。これを《神の恵み》と言わずして何と言えるだろうか。

 ただし、これはクレア・パールスが目の前で死んでいった人々に嘆き、自分にその力があればと滂沱の涙を零し切歯扼腕した末にめぐって来た奇跡だ。その思いを元に己を研鑽し続けた彼女の姿を神の恩恵ファルナが認めたのだ。

 《神の恵み》を授かったナチュルの体は、淡く柔らかい緑の燐光によって瞬く間に傷を回復させ、一秒後にはすでに万全の状態にまで治癒されていた。
 そしてその温かみに触れた彼女の意識は否応無く目覚めさせられた。

「……ハッ!?」

 極僅かな気絶に陥っていたナチュルを襲ったのは、不安定な浮遊感だった。ステイタスによって強化された五感と、気絶する直前の記憶によって己の現状
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