第十一話
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タスと体格が乏しい私は紙のように飛ばされそうになるが、受ける風圧の面積をより小さくするために更に深く沈みこむ。
半ばスライディングのように必殺の一撃を避けた私は、勢いのまま振りぬいた姿勢のがら空きになった腹に目掛けて薙刀を力の限り振るう。
『ガッ!?』
謙遜などではないが、私は決して薙刀の達人ではない。だからどうすればスマートな【撥水】が出来るかなんて解らない。
突きに特化した槍と違い、薙ぎに特化した薙刀。己の体重だけでなく、その長い柄を最大限利用した遠心力が上乗せされて放たれる一閃は下手な大剣をも凌ぐ。逆に返せば、より重い一撃を繰り出そうとすればそれだけ大振りに振らなければならなくなり、細かい芸当を挟む余地は無くなる。かといって小振りだと最大の武器である遠心力は味方してくれず威力は短刀にも劣ってしまうことだろう。
ただの凡才である私が、私の数十倍高いステイタスを誇るトロールを倒すためには、自分の許容範囲内で工夫をしなくてはならない。それも、格上を倒せるような工夫を。何度も何度も敢行しては叩きのめされた私が辿り着いた答えは切り取ることだ。
自身ごとコンパクトに回転することで振り幅を最大限に伸ばし、一閃の威力を引き伸ばす。更に【剛術】【対大型モンスター】の効果によって通常の八倍の一撃まで昇華させられた薙ぎ払いは、果たして薙刀自体が業物だったことも助長しトロールのゴムのような頑丈でしなやかな腹の脂肪を切り裂いた。
斬傷からは夥しい血が溢れるどころか、一滴すら零れてこない。あまりにも綺麗な断面だったせいで出血するのが遅れるのだ。
そのせいでトロールは正しい痛覚を覚えることが出来ず、ただ腹に猛烈な熱さを感じるだけに留まり、その熱さを誤魔化すように更なる怒号を上げて棍棒を振り戻す。
トロールの反撃を読んでいた私は、今度は振る予備動作を確認した瞬間に迷わずトロールに向かって突進。豪腕によって再び襲い来る凶悪な物理量だが、巨大なトロールの体格と私の小柄な体格を利用してトロールの股下をスライディングで潜り抜ける。
忽然と私が姿を消したように見えるトロールは宛もなく振った腕を引き戻し、視線を彷徨わせる。
隙だらけの背中に再び渾身の一閃を走らせる。しゅばっという凡そ肉を斬ったとは思えないほど鋭い音と共に、トロールの背中の肉がだらりと垂れる。
真後ろから突如襲い掛かった衝撃に巨体のトロールは前につんのめり、その隙にトロールの背中の傷に足を引っ掛けて巨体によじ登る。
深い傷に無遠慮な接触をされたトロールは痛ましい絶叫を迸らせ、石畳全てをひっぺ返す勢いで振り向きざまに凄まじい一撃を放つが、その対象である私はトロールの肩に乗っている。当然不安定すぎる足場だから遠慮なく薙刀を突き立てて柄にしがみついてるけど。
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