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ダンジョンに出会いを求めるのは間違っていた。
第十話
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ル君が目覚しい成長を遂げているからといって、それで実力が付いたとは言えないんだぞ……。彼の到達階層は七階層、それより上の階層にシルバーバックのような大型のモンスターは出現しない。だから、彼の経験則に全くそぐわない敵だ。初見のモンスターほど凶悪な存在はいない。何をしてくるのか解らないということは、自分の身に何が起るのかも解らないということだ。今のベル君にその判断を下せるかどうかと言われたら、私は首を横に振る。
 
 幸い私は今の体で三度ほど奴と交戦して勝利を収めている。手元に得意の得物が無いのが苦しいが、ベル君が戦うよりか私が相手したほうがまだ望みはある。

「ベル君───」

 私が叫びだした、そのとき。ギロリと、トロールが私の姿を一瞥した。言い表せない途轍もない悪寒に喉が絞まった直後、トロールはその巨体を風船のように空へと舞わせて、ベル君たちを飛び越して私の目の前に着地した。
 ばらばらと石畳がトロールの体重に絶叫を上げながら撒き散らされる。その一つの破片が私の靴先まで転がってきたとき、ようやく私は呪縛から解き放たれたように動いた。

「こんなの、他人の心配なんかしてる余裕なんてないじゃないか!!」

 トロールの目は血走っていた。ダンジョンの中で遭遇するトロールがするような目じゃなかった。何かを強烈に求め、何かに熱狂的に夢中になっている。それの正体は解らないけど、唯一つ、それが尋常ではないものであるのは確かだった。
 そして、その矛先が私に向けられているのも確かだった。

 ばっと翻って元来た街路に猛然と足を動かした。

『ガアアアアアアアアアッッ!!』

 迸った咆哮に、メインストリートを歩いていた住民たちは悲鳴を上げて見境なく逃げ去っていく。蜘蛛の子を散らすように、我先にと一目散に大通りから人々は姿を消していく。

 その方が好都合だ。戦いに巻き込まれたら即死するし、何より逃げてもらわないと私は誰かを庇いながら戦わなくてはならない。そんな余力、今の私にあるはずが無かった。確かにステイタスは冒険者になって一週間も満たないとは思えないくらい高いものだが、それがトロールと対等以上に渡り合えるものではないのも事実。

 とにかく、今の私に抵抗手段は無い。どこかで武器を調達しなくてはならない。ここで【アルテマ】を発動できたらどれだけ気楽なことか。でもあの魔法は一度地中の帝王(ミドガルズオルム)との戦いで民衆の目に晒している。少なくとも語り継がれているであろうあの魔法を発動したとなれば、後々レイナとして活動するのにかなり苦しくなる。

 これが生きる伝説とは笑わせる! やってやる、前世でどんだけ血反吐を吐いたか思い知らせてやる! だが少し待ってな! 得物を持ってないと思い知らせてやるどころか思い知らされちゃうから
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