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ダンジョンに出会いを求めるのは間違っていた。
第九話
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か。いや、解っている。それが彼女が持つ実力の証だということは、解っている。

 ウォーシャドウがその長い腕をだらりと動かした瞬間、少女も思い出したように床に落とした槍を掴み上げて走ってくる。

 またか。また僕は何も出来ず助けられて、ありがとうございますとへらへらするのか。どうせ僕は弱いんだと卑屈になるのか。

 嫌だ。そんなの、絶対に嫌だ。僕はどれだけ床にひれ伏しても、何度も立ち上がれるような英雄になりたいんだ。立ち上がるたびに強くなって、皆の希望になるような英雄になりたいんだ。

 だから、動け! 僕の全て! ぶつけろ! 僕の全てを!

「おおおおおおおおおお!!!!!」

 ジュウッと背中の神聖文字が超高熱を帯びた気がした。熱い。すごく熱い。でも、痛くない。逃げたいような熱さじゃない。これは僕の願望の熱さ。

 そう確信した刹那、僕の右腕が霞み消えた。次いで短刀に伝わってくる確かな手応えと、すれ違ったウォーシャドウが背後で崩れ落ちるのを感じた。

 一撃必殺。冒険者になって一番の、冴え渡った一撃だった。駆け出し殺しに何もさせずに返り討ちにしてやった。
 漠然とした達成感と清々しさに酔いしれる隙もなく、今まで置き去りにしていた徒労がここにきて僕の体を破壊せんばかりに圧し掛かってきた。

「キミ!」

 鈴を転がしたような声。ぐらりと傾いた視界が、ぐっと引き止められ不安定に固定される。

「……キミの服、汚れ、ちゃうよ」
「そんなの気にしませんよ。冒険者なんですから」

 う……ん、疲れのせいかな、僕の記憶にある少女の口調とアイズさんの口調が重なって聞こえるな……。でも、今そんなことはどうでもいいや……。

「昨日……何も言わず逃げて……ごめんなさい」
「予め私が言ったじゃないですか、『構わず逃げて』って。キミはそれに従っただけです」

 それとこれとは別の話だと思う……と言おうとしたけど、それは彼女の気遣いなのかもしれない。身を焦がしていた熱が抜け落ちたせいか、僕の手を肩に回す彼女のぬくもりがとても心地いいものに感じた。このままずっとこうしていたい、そんな思い。
 はは……、アイズさんという人があろう者が何を……。あ、そうだ。

「キミ名前は? あ、僕はベル・クラネル」
「何で名前を尋ねるときだけ疲れが消えてるんですかねぇ……」

 呆れたようにじとっと見てくる少女。ダンジョンに潜っていたとは思えないほど綺麗な、というか全くもって無傷の少女は白い肌に浮かぶピンクの唇を三日月に歪めて言った。

「私の名前はレイナ・シュワルツです。駆け出しの冒険者です」

 恥ずかしがることなく、むしろどこか誇らしげに名乗った。それは彼女の心構えから来ているものなのだろうか。常に初心を忘れるな
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