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ダンジョンに出会いを求めるのは間違っていた。
第九話
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は白濁とした光を宿していた。



 悔しい。恥ずかしい。情けない。
 僕はロキ・ファミリア(あの人たち)の嘲笑に何も返すことが出来なかった。ただ恥を忍んで聞くことしかできなかった。あまつさえその事実から目を背けるように逃げ出してきた。

 それはなぜか。僕が弱いからに他ならない。

 どの嘲弄も返せない自分が悔しい。
 弱いくせに憧れの彼女と無償で親密になれるだなんて幻想を抱いていた自分が恥ずかしい。
 彼女にとってそこらに転がっている路傍の石に過ぎない自分が情けない。

 そして何より、笑い種に使われ侮蔑され失笑された挙句に彼女に庇われる自分が、憎くてたまらない。

 そんな自分を消し去りたいと、沢山のモンスターを倒せば自分が強くなれるんじゃないかと、我武者羅にダンジョンを駆け巡っていた。
 結果は僕の全身を見れば解るとおり、ぼろぼろだ。彼女はこんな低層なんかで掠り傷一つ付くこと無いだろう。あのミノタウロスを二頭まとめて瞬殺してしまう彼女は、一体どこまで先にいるのだろう。僕は果たして、彼女に追いつくことが出来るのだろうか。

 びきり、と。僕の心と、ダンジョンの壁に罅が走る音がした。
 そして同時に僕は見た。薄緑色の壁面だけが広がる空間の向こうに、見覚えのある少女が呆然とこちらを見つめている。

 その目と目が合った。

 初めて会ったとき、黒髪の少女は僕と一緒でミノタウロスに追いかけられていた。でも、僕と違ってどこか浮世離れした余裕と最後の最後まで諦めない断固とした意思があった。

『諦めるな、無理だと思っているうちはまだ無理じゃない、だから諦めるな!』

 誰もが現実を投げ出そうとする状況に追い込まれても、黒髪の少女はそう言った。僕はその後姿を忘れることが出来ずにいた。年相応の華奢な体に、繊細な四肢。どこにも逞しさと呼べる要素は無かったのに、もしかしたら彼女ならばと、彼女の全身から不思議とそう思わされる気迫が迸っていた。

 あぁ、そういえば僕は彼女からも逃げちゃったんだっけ……。

 アイズさんと面と面を合わせるのが恥ずかしくて堪らず逃げ出した僕は、同時に窮地に追い込まれても立ち向かってくれた彼女からも逃げ出したんだ。きっと、最後はやはり死ぬんだと思った自分がいたのを知っていたから。

 僕の背後から一体のモンスターが生成されたのを気配で察した。一体ここが何階層なのかも解らない。酷く実感の無いまま振り向く。そこには全身を漆黒で染めた影がいた。

 《ウォーシャドウ》六階層から出現する駆け出し殺しの異名を取るモンスター。
 モンスターと対峙した僕を見て、少女は背に抱えるようにして持っていたバッグを床に落とした。あれだけ大きなバックパックが膨れるほど詰め込まれているのは何だろう
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