第八話
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た。あの色があの女神に穢されなければ、どれほど自分好みの色になっただろうと爪を噛んだくらいだ。
果てしない努力の果てに失った変幻さと、誰か一人に仕える喜びを知り得た単調さ。見ていてすぐに飽きてしまうような、あまりに変化に乏しいあの色は。味気の無いワインを飲んでいるかのようなあの色は。
クレア・パールス。あの伝説の冒険者以外、こんな色を持つことは出来ないはずだ。あの女ほど狂った人生を送らない限り、この色を宿すことなんて出来るはずが無い。
なのに、今自分の目の前にいる少女が持つ魂は、その色と寸分違わず同じものだ。
ありえない。フレイヤは己の考えを否定する。クレア・パールスは確かに死んだ。だからあの女神はあれほど狂った真似を仕出かしたのだ。死者の魂は一度天界に吸い上げられ、そこで魂の初期化を行い、再び新たに生まれる命に吹き込まれる。だから死んだクレア・パールスの魂も例外なく脱色されているはずだ。されなくてはならない。
なのに、あの少女は、脱色されるべき憎き色を持っている。フレイヤの魔性の美に逆らえる唯一の色。
あの少女が持つ魂がクレア・パールスと同一かどうかは正直どうでもいい。ただ、自分の絶対の美を理解できない者がこの世界に存在するという事実が、美の神には到底看過できるものではない。
ビキリと、フレイヤが持つグラスに罅が走った。
「オッタル」
「はっ」
短く己の従者を呼びつける。巨漢は厳めしい声で即座に答える。錆色の短髪から猪耳を生やす彼は、岩のような体を折り片膝を突いて己が主神の命を待つ。
「もし、もしの話。あなたが憧れた者がすぐそこにいたら、あなたはどうする?」
「自分の憧憬はフレイヤ様以外ありえませぬ。貴女の寵愛を頂けるだけで光栄の至り」
慇懃な態度を崩さず答えたオッタルに、フレイヤは罅が入ったグラスを手置きに置いて補足した。
「そういう意味じゃないわ。貴方がその力を得る一番最初の切欠を与えた人物、クレア・パールスが貴方の前に現れたら、貴方はどうする?」
愚考が至らず、と謝りを挟んでからオッタルは答えた。
「どうもいたせませぬ。自分が冒険者を臨んだ原因に過ぎない存在に、他意を挟む意味はありません」
「そうかしら? 例えば、手合わせをしたいとかは思わないのかしら」
「恐れながら申しあげます。クレア・パールスはすでに亡き存在。そのような存在にたらればを求めるのは───」
「だから言ったのよ。す
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