5部分:第五章
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第五章
「襲われることはなかった」
「それどころか顔を見られて慌てて去ったのですか」
「鬼とは思えませんが」
「しかし鬼じゃった」
彼はおのことは断言した。
「角を見たのでおじゃるからな。頭に生えておったそれを」
「だったら間違いないか」
「そうじゃのう」
やくざ者達は公望のその言葉を聞いて顔を見合わせ合った。
「角があればな」
「鬼に違いない」
「しかし。麿にはわからぬ」
杯を手にしたまま首を捻ってきた。
「いや、麿にもわからぬと言おうか」
「といいますと」
「何故屋敷に鬼がおったのじゃろのう」
やはり首を捻って言うのだった。
「あの様な鬼がな。どうしてじゃ」
「そうですな」
それに応えて親分が口を開いた。
「殿様、あれかも知れませんよ」
「あれというと?」
「鬼にしろ何でもです」
まずはこう言ってきた。
「ああした類は案外側にいつもいるのかも知れませんよ」
「側にか」
「物陰とかありますよね」
「うむ」
親分のその言葉に対して頷く。
「あと人が普段入らない天井裏やら物陰やら」
「便所にしろそうか」
「人がいない場所の方が多いものです」
親分は考える目でさらに語る。
「一つの部屋にいたら他にはいないものですから」
「ではあれですね」
「つまり」
彼の手下であるほかのやくざ者達がそれを聞いて口々に言う。
「人間のいない場所にいると」
「化け物っていうのは」
「そうじゃねえのか?」
手下達に応えて述べた。
「殿様が会ったっていうその鬼にしろな」
「左様か」
公望はそれを聞いていう。
「それなら納得がいくな」
「それではあれですか」
妻がいびかしむ顔で公望に問うてきた。
「何時でも何処でも。人がいない場所に」
「そうであろうな」
公望も妻のその言葉に応えて頷く。
「あやかしの類は人とは違う世界に棲んでおるものというから」
「違う世界ですか」
「同じ世界であっても違う世界じゃ」
こうも言う公望だった。
「じゃから。普段は会わぬだけじゃな」
「それだけですか」
「そうかもな。まあとにかくじゃ」
次第に落ち着きが完全になってきて言葉を続ける公望だった。
「何もなくてよかった。食われるわけでもなかったしな」
「ええ、まあそれは」
「確かに」
このことには頷き素直に喜ぶ妻とやくざ者達だった。落ち着きを取り戻した公望は静かに酒を飲み続けている。部屋の周りに少しざわざわした気配も感じつつ。しかしそれをわかった今は特に怖いとも思うことなく酒を楽しむのであった。わかってしまえばどうということはないと言わんばかりの物腰で。
鬼の顔 完
2008・10・7
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