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藤崎京之介怪異譚
case.1 「廃病院の陰影」
XI 同日 pm3:12
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 僕も天宮さんも驚いて振り返り、同時に彼を呼んだのだ。
「先生…!」
「藤崎君…!」
 それは、間違いなく先生だった。僕達の方へ微笑みながら歩み寄ってきていた。
 先生はいつもそうだ。こっちが死ぬほど心配していても、こうやってケロッとした顔で戻ってくる。
「心配掛けましたが、何とか生きて戻ってきましたよ。」
 世間話のように、先生はさらっと言ってきた。
 まったく…この藤崎と言う人は…。
「しかし…藤崎君、どうやってあの崩壊の中から…?」
 そうだ。先生は一体、あの中からどうやって脱出したんだろう?
 先生は天宮さんに問われ、少し戸惑い気味に語り始めた。
「正直な話、どう話して良いやら…。」

 先生の話によると、足を掴んでいた英さんの遺骸が、天井の落石から身を守ってくれたのだと言う。
 天井の一部が落下してきた時に、死体が先生を壁際に突き飛ばしたと言うのだ。
 次には、その壁が衝撃で奥へと崩れ、地下道らしきものがあった。その中へは二つの白骨化した遺体があり、一つは白衣を着ていたので今井だと分かった。その横の遺体は…恐らく吉野トメだったのだろうと言うのだ。
 先生は二つの遺体を乗り越え、そのまま奥へと走った。あのランプを掲げながら…。
 時間なんてなかったけど、先生はその時、一度だけ振り返ったという。それは、誰かに呼ばれたような気がしたからだった。
 後ろを振り替えると、そこには今井や吉野トメ、英さんや他の犠牲者達が生前の姿で立っていて、皆が先生に頭を下げたのだと…。
 先生本人にも、それが現実なのか幻想だったのか分からないと言っていた。
 揺れがひどくなったため、先生はその地下道を走った。
 どこへ通じているか分からなかったが、幾つもの角を曲がり、漸く出口らしき扉へと辿り着いたのだった。
 そこはあまり揺れてはおらず、先生は安堵して扉を開いた。
 何もない部屋が、そこにひっそりと現れた。西に傾いた太陽の陽射しが、闇に慣れた先生の目を眩ます。
 やっと光に目が慣れると、直ぐ様もう一枚の扉へと駆け寄り、それを開け放した。 そこは、病院からかなり離れて作られた、古い焼却場だったのだ。
 まるで時代に取り残されたのような、妙に哀愁漂う風景だったという…。
 そしてそこからも、病院の崩れ行く姿をはっきりと目視することが出来た。
 最後の悲鳴をあげ、恐怖に彩られた舞台は消え去っていったのだった。
 多くの悲しみ、苦しみ、痛み、そして…愛や喜びをも飲み込んで…。



から聞こえる音は、この涙なのかも知れない…。
 私は同性愛者ですが、異性を愛する人もこんな経験はないでしょうか?


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