case.1 「廃病院の陰影」
X 同日 pm2:32
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を強くしていること。
当時の教会からすれば、些か教義から外れているのだ。
この歌詞に、なぜバッハが作曲したのかは分からない…。だが、この親しみのある旋律は、多くの人々を癒したに違いない。
言葉には力があり、音楽はその力を強くすると俺は思っている。
だから…歌うんだ…。
―止めろ!!―
怒声が響く。それと同時に、俺の左手と左腕と右足に、剃刀で切ったような痛みが走った。
それでも俺は歌い続けた。
―有り得ん…!なぜだ…!?―
それは今までとは違い、とてもか細い声だった。
その言葉を最後に、悪意ある力は薄れてゆき、俺が全八節を歌い終わる頃には、完全に消え去ってしまった。
だが、まだ終わったわけではなかった。
「あ…!?」
建物自体が軋み、崩れ始めたのだ。
ここは地下だ。ここへ来た道しか出口はないが、果して間に合うか否か…。
「早くしないと…。」
全ては消え去らなくてはならない。だから、この廃病院そのものも消え去らなくてはならない。
悪霊の力で支配されていた建物だ。力が消えたと同時に、崩れるのは予想していたことだった。
しかし、悪霊の最後の足掻きか、俺の足にベッドに横たえられていた英さんの遺骸があった。俺の足をしっかりと掴んで…。
俺はそれをほどこうとしたが、どういうわけか全く離れないのだ。
音が段々と大きくなり、亀裂が入り始めた。上を見ると天井にも大きく亀裂が走り、そのまま崩れだした。
そして、その一部が俺目掛けて落下してきたのだった…。
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