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鬼の顔
4部分:第四章

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第四章

「貴方は私の顔を見られたのですね」
「私!?顔!?」
「これはいけない」
 顔が見えてきた。それはやけに細長い。
「見られたからには。ここを去らなければ」
「なっ!?その顔は」
 公望は男の顔を見てあっと驚いた。何とその者こそは。
 気がついた彼は廊下の上に倒れていた。その彼を妻ややくざ者達が心配する顔で覗き込んでいた。
「よかった、御無事だぞ」
「生きておられるぞ」
「うむ、どうやらな」
「一体どうしたのでおじゃる?」
 公望は目をしばたかせつつ彼等に問うた。空を見ればまだ真夜中だった。
「そんなに驚いて」
「驚くも何も」
 やくざ者達と一緒にいた妻がほっとしたような顔で彼に告げる。
「戻って来るのが遅かったから心配になって来たのでおじゃる」
「便所に落ちていたらと思いましたし」
「酔って倒れておられたのかと」
「それどころではなかったのじゃ」
 公望は身体を起こしつつ妻達に述べた。
「そんなものではな」
「といいますと」
「何があったのですか?」
「まずは戻るでおじゃる」
 こう周りの者達に告げた。
「部屋に。飲みなおしながら話すとしよう」
「わかりました。それでは」
「飲みなおしながら」
 こう言い合って部屋に戻りまた飲みなおした。公望は酒で何とか心を落ち着かせながら少しずつ何があったのかを話した。それは妻にとってもやくざ者達にとっても驚くべきことだった。
「鬼がですか」
「うむ」
 やくざ者達の問いに対して答える。
「そうじゃ。鬼が便所から出てのう」
「引き返したらそこにいた」
「この屋敷にですか」
「信じられんか?」
 妻に対して聞き返す。
「このことは」
「このお屋敷に住んでもう二十年でおじゃる」
 そのまま結婚している時間である。
「けれど鬼はおろか怪しいものは何も」
「ええ、そうですよ」
「あっし達もです」
 やくざ者達も奥方の言葉に応えて次々に言う。
「そんなのを見たことはおろか聞いたことも」
「ありませんよ」
「しかし本当じゃ」
 公望はまた酒を一杯飲んで心を鎮めた。酒が彼の心を何とか平静にさせている。
「おったのじゃ。鬼がな」
「ううむ、それはまた面妖な」
「しかも襲われなかったのですね」
「それが大丈夫じゃった」
 公望はそれははっきりと答えた。

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