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藤崎京之介怪異譚
case.1 「廃病院の陰影」
W 7.20.am11:28
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「じゃ、ここで休憩にする。午後は1時30分からにするから、各自それまでに入っているようにな。」
 俺がそう言うと、団員達は各々休憩する場所へと散って行った。
 だが、一人だけ俺の所へやって来た奴がいた。
 言わずと知れた田邊だ。
「先生、昨日の話しなんですが、やはりモテットは葬儀用のものだけにしてはいかがですか?他にカンタータ第106番を加えるようにした方が良いと思うんですが?」
 彼がそう提案してきたが、俺は渋い顔をして答えざるを得なかった。
「そうしたいのは山々なんだが、何せこの暑さだ。オケを屋外で演奏させるのは無理だ。だからア・カペラでモテット全曲を演奏しようと言ったんだが?」
 俺の反論を聞くや、田邊はニッと笑って言ってきた。
「そうだろうと思いまして、実家に相談してみたんですよ。明日の午後迄には、あるものを設置してもらえることになりました。」
 俺はそれを聞き、首を傾げた。
 “あるもの”なんて思わせ振りな言い方に、一体どう反応して良いのか分からなかったのだ。
「ま、明日になれば分かりますよ。で、曲目はどうしますか?」
 田邊の実家は大手の建設会社だ。実は彼、かなりのお坊っちゃんなのだ。
 まぁ、彼がここまで言うんだったら、オケ付きの選曲でも問題はないんだろう。
 俺は田邊を信じ、選曲を指示した。
「モテットはBWV.118、227、229を。そしてカンタータ第106番にミサ・ブレウ゛ィスヘ長調を加える。演奏経験もあるし、大丈夫だろうと思うが?」
「問題ありません。では、僕はパート譜を出してコピーしてきます。モテットは既に用意してありますので。」
 他人から見れば、今の俺達は尋常を逸しているように見えるに違いない。何せ、あの廃病院で演奏をしようと言うんだからな…。
 無論だが、観客なんぞいるわけがない。ま、経費は天宮氏に出してもらえるから良いとして、問題は後の演奏会にどれだけ影響してくるかだな…。
 俺はそれを考え軽く溜め息を漏らし、休憩室へと向かったのだった。
 休憩室は南側の、とても陽当たりの良い部屋だ。まぁ、夏に陽当たりが良すぎるってのは、ちょっとばかり困りものではあるんだが…。
 その休憩室に、何やら人だかりができていた。中で何かあったらしいので、俺は「どうした、騒がしいぞ。」と言って入って行くと…。

「何だ…これ…。」

 あまりのことに、俺は絶句してしまった。十中八九、これが騒ぎの原因だ。
 部屋の壁の一つ、窓とは反対の北側の壁に、写真とも絵ともつかないものが写し出されていたのだ。
 それはモノクロだったが、ハッキリと見てとれるものであり、人物の表情まで分かる代物だった。
 そこには二人の人物がいて、どうやら病院内のようだ。
 一人は医者で、もう一人は…。
「吉野…ト
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