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藤崎京之介怪異譚
case.1 「廃病院の陰影」
V 同日 pm.8:45
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目の破綻理由だが、表向きは医療ミスによる患者の減少が原因となってるんだがね…、内部記録は違うんだ。」
 天宮氏は、ここで一旦言葉を切った。
 医療ミスだったら、病院としてはかなりの痛手だったはずだ。だが、それ以上のことがあったようだな。
「これは君だから話すんだ。なにせ極秘扱いだからね。実は、医師の一人が何やら怪しげな実験をしていたようなんだよ…。」
 俺は直感的に何かを感じとり、その直感を天宮氏に問いかけた。
「もしや…人体による実験ですか…?」
 電話越しに、天宮氏の溜め息が聞こえてきた。どうやら当たっていたらしい…。
「その通りだ…。地下に実験施設があり、そこで日常的に行われていたらしい。父の代でこんなことがあったとは、正直私も驚いてるよ…。」
 そうだろうな…。天宮氏の父は恐らく、全権力を持って揉み消しただろうが、上層部内部資料は残っていたってわけか。
 俺はそこで、一つの名前を思い出した。
“吉野トメ”だ。
 何らかの関わりはあったと考えて、俺は天宮氏に聞いてみることにした。
「天宮さん、資料のどこかに吉野トメという人物の名はありませんでしたか?」
 俺が聞いて暫く、天宮氏は無言のままだった。
 何やら口にしてはならないことを、俺は聞いてしまったようだ。
「君がその名をどうして知ったかは、大体想像出来るが…。これは我が会社の最高機密だ。君を信頼し、話すとしよう…。」
 天宮氏の声がいつもとは違い、切迫した状況を犇々と伝えているようにも感じられた。
 それだけ追い詰められているのかも知れない…。
「信用して下さい。誰にも口外は致しません。」
 俺がそう言うと、天宮氏は少し笑って「分かってるよ。」と言った。
 天宮氏の話しを要約しよう。

 先ず、吉野トメという人物は、研究医師の母親なのだという。これでも驚きなのだが、この母親も試験体にされていたというのだ。
 医師の名は吉野陽一郎。病院には1976年から勤めていたが、新薬の開発に携わっていたようであった。
 主に神経に関わる薬の開発をしていたようだが、ある時期から別の薬の開発・実験を行っていたという。
 詳細は抹消されているが、どうやら精神異常の患者を治す薬を開発していたらしいとのことだ。
 そこで実験体の登場となるわけだが、吉野医師の母親の他、二十名以上が投与された記録が残されているという。
 投薬実験は1979年から82年の間に行われ、死亡者は計十四人。皆一様に“心不全”と明記されたそうだが…。
 しかし、一人だけ別の死因による記載があるのだ。
 あの吉野トメは、「火傷によるショック死」となっていたのだ。
「どういうことなんだろうか…?」
 俺は何とはなしに口にした。天宮氏はそれを質問と捉えたようで、その答えを話してくれたのだった。

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