case.1 「廃病院の陰影」
T 7.18.pm6:25
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こまで話しを遠回しにするときは、決まって最悪の状況なのだ。
天宮氏はかなり有名な方だし、それなりのツテだってある。そんな方が一介の音楽家風情である俺を訪ねるなど、本来有り得ない話だ。
だとすれば、霊に関することなのは分かるが、天宮氏の知り合いには有能な霊能力者だっている。俺も一度だけ会ってはいるが、彼の能力は本物だった。
「実はな、英さんの行方が途絶えたんだ。」
「え…?」
唐突にそう言われた俺は、何と返答してよいか言葉に詰まった。
英さんとは、さっき話した霊能力者だ。フルネームは英 峻(はなぶさ たかし)だ。極端なテレビ嫌いで、マスコミにも全く顔を出していないため、一般にはあまり知られていない。
その彼が行方不明…?
「天宮さん、もしかして…。」
俺は嫌な予感を拭いきれなかった。
団員内での噂話、天宮氏の訪問、そして英さんの失踪…。何か連鎖しているような気がしてならなかった。
「藤崎くん、今君が考えている通りだと思うよ。私は彼に、あの廃病院の淨霊を依頼したんだ。しかし、その直後から彼の足取りが掴めなくなった。」
「何てことだ…。」
俺は愕然とした。あの英さんが失敗するなんて…。
窓から外を見ると、もうすっかり日は落ちていて、街に人工的な明かりが溢れていた。
今回は、かなり厳しい戦いを強いられそうだ。
「英さんは、いつ頃から消息を絶っていますか?」
天宮氏は言いにくそうだったが、頭を掻きながらその重い口を開いた。
「三週間程前からだ。」
俺は深く溜め息を吐いた。英さんを救い出すには、もう遅いかも知れないと考えたからだ。
勿論生きている可能性はあるが、天宮氏の話しからすると、行方が途絶えたのはあの廃病院内という可能性が高い。
閉じ込められたとすれば、水や食糧がない限り絶望的ともいえる。廃病院なんぞに、そんなものがあるとは考えにくいがな…。
「天宮さん、明日にでも行ってみることにします。」
俺は思案している天宮氏に言った。どうせこうなることは目に見えてるんだ。ま、スポンサー様なんだから、断るわけにはゆかないんだけどさ…。
「そうか、ありがとう!入り用なものがあったらこちらで用意させてもらうから、宜しく頼む。」
そう言って握手を交わすと、天宮氏は足早に部屋を出て行ったのだった。
「相変わらず多忙の様だ。」
俺は一人、誰もいない部屋の中で呟いた。
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