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ダンジョンに出会いを求めるのは間違っていた。
第三話
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した、そのとき。暗雲に満ち満ちていた思考に、あまりにも細いけど、確かに眩しい一条の光が差し込んだ。

 待てよ……。今私は何かとんでもないものを見落としていないか……? 
 唐突に過ぎった何かが、私の思考に引っかかった。何だ。何が引っかかったんだ。
 そして、答えを知る。

 セレーネ様の面影は完全に消された。でも、セレーネ様の存在は消されていない……?

 そうだ、全くその通りだ。だってセレーネ様を無かったことにしたいのならば、セレーネ様の名前も、セレーネ様が生きた経緯も全て抹消しなくてはならないはずだ。そんなこと出来ないはずだって? 何をバカな。出来る奴らがここにはごまんと蔓延っているじゃないか。人智を超えた存在、神たちが。
 確かに神たちは下界で神の力(アルカナム)の使用を禁止されている。けれど、もし、誰にも気づかれないように神の力を使ったならば。
 思えばそうだ。私が生きた時代では神の力は使用を禁止されていたけど、封印はされていなかった。その証拠にセレーネ様やロキ様を始めゼウス様やヘラ様ですら、その身から溢れてしまうほどの神威(しんい)を保っていたじゃないか。
 神様たちの神威は離れていても本能が肌で感じ取ってしまえる。だから人々は彼らに敬意を払い、眷属になることを誓った。だけど、今のオラリオにはどこからにも神威は感じ取れない。全くだ。無意識のうちに溢れてしまっていた神威すら無くなったということは、本格的に神の力を封印されたか規制された可能性は高い。

 これほど不自然な現状に、どうしてここまで気づかなかったのか。やはり、私はセレーネ様がいなければ何も出来ないバカのアホの極みだ。

 そうと解れば私は自殺をしようなどとは言えないぞ。このありえない現状を引き起こした犯人をひっ捕らえて、セレーネ様に何をしたのか洗いざらい吐かせて、死ぬほどセレーネ様に懺悔させて、セレーネ様に裁いてもらう。偉大なるセレーネ様を陥れたその狼藉、ほんのそこらの罰で済むと思ってくれるなよ……?
 
「じょ、嬢ちゃん、き、気を確かに持つんじゃ、まだ狂うには早いぞ!」

 堪らず叫んだ店長の声に、ようやく今の自分が笑みを浮かべていることに気づいた。それはもうセレーネ様には見せられないくらい素敵なものだっただろう。
 笑顔とは本来、動物が敵に自らの力を示すために牙を覗かせるために行っていた威嚇行為だ。非常に攻撃的で、そこには一切の友好は無く、慈悲はない。
 だから人たちは笑顔で人を畏怖させることが出来るのだ。

「大丈夫です、おじさん。気持ちを落ち着かせることが出来ました」
「ほ、本当か! そんな可愛い顔を持ってるんだ、人生大切にしな」

 心底ほっとした店長は胸を撫で下ろし大きなため息を付いた。しかし次の私の言葉にど肝を抜かれた。
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