暁 〜小説投稿サイト〜
ダンジョンに出会いを求めるのは間違っていた。
第三話
[5/9]

[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話
一の団員が死んでしまったことで入団希望者を募るかもと冒険者が集まるんじゃないのか? 伝説の冒険者に憧れて同じファミリアに入りたいと思うのが冒険者じゃないのか?

 なのに、何で、セレーネ様が全く無視されるんだ? 一番解らないのがそこだ。何で私如きの名前が今でも広がっているのに、何で私を育ててくれたセレーネ様は抹消されたんだ?

 何かの間違いだと思ってセレーネ様のご神友であるヘファイストス様とロキ様のファミリアに足を運んでも、そもそも門前払い。かつての名で通してくれと懇願しても嘲りを付されて叩き出される始末。

 くそ……っ! 一体セレーネ様が何をしたって言うんだよ! 古今東西あらゆる褒め言葉を並べてもまるで足りないあの方に何の恨みがあるんだ! みんなが敬愛するクレアを育てた母なんだぞ! クレアより更に敬を払うのが当然でしょうが!

 どれほど悪態を付いても、私の胸の中に空いた穴を埋めることは出来なかった。その穴はダンジョンの比にならないほど大きく、それがセレーネ様によって満たされていた愛だと自覚したときには、既に滂沱の涙を流していた。嗚咽は無い。ただただ涙が意味も無く溢れてくるだけ。いくつの涙を流せばセレーネ様が帰って来てくれるかなぁ……。それしか泣く理由が解らない。

 何時間その場で泣いていたかも解らない。解らない間に涙すら出てこなくなり、何も拭わなかったせいで涙を伝った頬はかぴかぴに乾燥しているけど、そんなことすらどうでもよく感じてしまえる。
 
 私は何のために転生してきたんだろう……セレーネ様のいない世界なんて、生きているだけ無駄だ……。もう一度死ねば戻るかな……。

 ふらりと立ち上がり、自殺する前に心配で心を痛めながらも送り出してくれた両親に最後の一通を送っておかなきゃと思い、気が付いたらみすぼらしい書店でペンを片手に羊皮紙に向かおうとしていた。ふと顔を上げれば心底心配する光を目に宿した老齢のヒューマンの姿が見えた。

 はぁ……レイナちゃんの体を奪った挙句、自分勝手に自殺するなんて最悪最低な奴だ……。もしかしたら、クレア・パールスが生まれていなければセレーネ様もこんな目に遭わなくてすんだのかもしれない……。そうか、何もかもクレア・パールスという魂がこの世界に迷い込んだのが悪かったんだ……。そうすれば誰にも迷惑をかけることも無かったのに……。

 ガリッと力が篭りすぎたペン先は圧し折れ、わずかな黒鉛で羊皮紙を汚して芯は何処へ消え去った。
 折れた音に老齢の店長は痛ましそうに見つめてくるけど、何か言葉を掛けることはなかった。その方が助かる。今何か慰めの言葉を受ければ堪らずこの場で死にたくなる。
 黙って差し出される新しいペンを力なく受け取り、いざ私の素性とことの顛末を書き残してめいっぱいの謝罪を述べようと
[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ