2部分:第二章
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第二章
「何処へ行くんだ?」
「用足しにでさ」
やくざの親分格にこう述べる。
「ちょっと飲み過ぎたらしくて」
「おう、じゃあ行って来い」
「へい」
「不浄の場所は知っておるのう?」
公望はそのやくざ者に便所の場所を知っているかどうか尋ねた。
「それはわかっておるな」
「へえ、ここには何度かお邪魔させてもらってるんで」
「ならばよい。行っておじゃれ」
「わかりやした」
こうして彼は便所に向かった。それからも一同は酒を飲み続けたが今度は公望が席を立ったのだった。
「用足しですか」
「麿も飲み過ぎたようじゃ」
笑ってやくざ者達に答える。
「だからじゃ。暫く席を外すぞ」
「へい、わかりやした」
「それじゃあ」
「うむ。しかしじゃ」
立ち上がった彼は便所に向かう廊下の方を見て言う。行灯の薄明かりに照らされたその障子のところには何一つとして映し出されてはいない。殺風景とも言っていい様子だった。
「今宵はまた静かでおじゃるな」
「月も出ていないようですね」
「さっき見てきましたけれど」
「新月だったかのう」
公望はやくざ者達の話を聞いてこう思った。
「今宵は」
「まだそれには早いですけれどね」
「それでも」
「曇っておるのか」
彼はそれを聞いて今度はこう考えた。
「それで月がないのか」
「明日は雨ですかね」
「そういえば古傷が少し」
「雨か。まあ仕方ないのう」
公望は雨と聞いて少し達観した顔になった。
「いつも晴れだとは限らぬ。雨が降るのも世の中じゃ」
「それはそうですけれどね」
「それでも古傷が疼くのはどうも」
「それは仕方ないでおじゃろう。やくざ者に傷はつきもの」
こうしたこともよくわかっている公望だった。伊達に今もこうしてやくざ者達と付き合っているわけではない。そういうことであった。
「麿達と歌が切っても切れないのと同じじゃ」
「そういうものですか」
「けれどこれがまた」
「まあそこは諦めるしかあるまい。起こってしまったことはな」
「左様ですか」
「そういうものじゃ。さて」
彼はここで遂に足を進めた。
「言ってくるぞ。それではな」
「はい、それじゃあ」
「行ってらっしゃいませ」
「うむ」
こうして彼も便所に向かった。そしてその彼と行き代わりに先程用足しに出たやくざ者が部屋に戻って来た。しかし入って来たのは先程出た方とは逆であった。
「どうも。お待たせしやした」
「あれっ、おめえ」
「どうしてそこからなんだ?」
「ちょっと何かおかしな気配を感じやして」
「おかしな気配?」
「盗人か?」
「それはちょっと」
盗人という言葉に首を捻ったのは奥方だった。
「この様な貧乏公家の屋敷に盗人等とは」
「いやいや、盗人というもの
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