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第一章
鬼の顔
江戸時代の話だ。京都の公家三司家において主の公望と妻がで夜なべをしていた。見れば花札を作っていた。筆でせっせと文字を書いている。
「これも大分進んだでおじゃるな」
「ええ。今宵で」
仕事を進めながら二人で笑顔で言い合う。服は略装で動き易いものだった。公家といえど家の中では格式ばったものではなかった。
「随分となあ」
「頑張ったかいがありました」
「そうでおじゃる」
公望は機嫌よく女房に述べた。見れば二人の他にも何人かいる。ただし彼等は今一つ柄のいい顔立ちではなく目つきも鋭い。一見すれば公卿の側にいるにしてはいささか品性に欠けるように見える。しかし実際はそうでもないどころか公家の家に出入りするのに相応しい者達だった。
この時代鉄火場は寺社の境内や公家の屋敷で開かれていたのだ。そういった場所で行われるのは奉行所の力が及ばないからだ。寺社は寺社奉行の管轄で公家は公家諸法度の世界だ。だから武家である奉行所はそうそう容易には入ることができなかったのである。だから今日の公家達は自分の家で鉄火場を開かせ自分はその上前をはねていたのである。また今の二人のように花札等を作ってそれを売って内職にしていたのだ。丁度今の彼等がそうだ。従って公家というものは非常に柄の悪い者達も多かったのだ。
その彼等は札を作っている。その中でやくざ者達が彼等に声をかける。
「参議、それでですね」
「花札が終わりましたら」
「何でおじゃろう」
「また鉄火場を開きたいのですが」
こう公望に御願い出て来たのである。
「また。宜しいでしょうか」
「御礼のことはまあ」
「ふむ」
御礼の話を聞いて公望の顔が少し動いた。
「それはまた後でゆうるりとな」
「ではそういうことで」
「また後で」
「とりあえずは一服するか」
公望はここで一旦筆を止めた。
「随分と書いたからのう、今宵は」
「ええ。じゃあこれ位にしますか?今日は」
「いい酒がありまして」
「ほう。酒とな」
酒と聞いて公望の顔が笑みになった。
「酒でおじゃるな」
「はい、そうです」
「こちらに。おい」
「わかりやした」
下っ端が応えて部屋を出る。そして数人でやたらとでかい樽を持って来たのであった。
「どうぞ。普段ここを使わせてもらってる御礼でもあります」
「つまみもありますよ」
「またそれは用意がいいでおじゃるな」
肴まであると聞いて公望の顔はさらに綻んだ。
「では今宵はこれまでにしておくかのう」
「そうでございますな」
妻も微笑んで公望に返した。
「それではお酒でも」
「では奥方様も」
「ささ、これは」
「おお、これはこれは」
やくざ者の一人が差し出してきたそれを見て公望は目を
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