3部分:第三章
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第三章
「何か声が聞こえますが」
「うむ、堂の外からだ」
こう言いつつ彼は立ち上がった。そして堂の外を見る。
「誰かいるのか?」
「おい、生きておるぞ」
「運のいい男じゃ」
堂の外にいたのは農民達だった。どうやらこの辺りの村人らしい。彼等は仁八が堂から出て来たのを見て驚きの声をあげたのである。
それを見て仁八は。まず首を傾げてそのうえで今時分がいる堂の戸口のところから彼等に対して尋ねるのだった。
「運がいい?」
「全くじゃ」
「生きておるのだからな」
「生きているとは」
その言葉を聞いてまた首を傾げる。
「何が何なのか」
「一体何なのでしょうか」
ここで戸口にお淀も出て来た。村人達は彼女の姿を見てさらに驚くのだった。
「おおっ、女も生きている」
「これはまことか」
「運がいいだのまことだの」
仁はちにとってはわからないことだった。あまりにも何が何なのか。それで堂から出て村人達に対して尋ねた。お淀も一緒だった。
「あの、何かあったのですか?」
「運がいいとは」
「この堂に入ってはならんのじゃ」
村人の一人がまず二人にこう答えた。
「入れば死ぬのじゃ」
「死ぬ!?」
「左様」
その村人は死ぬと言ってから仁八の言葉に頷くのだった。
「ここには鬼か何かがおってな」
「鬼が」
「そう。それで中に入って休んだ者を引き裂いて殺すのじゃ」
「引き裂いて」
「殺す」
それを聞いて仁八だけでなくお淀も思わず声をあげた。本当のこととは思いたくなかった。
「それはまことで」
「そんなことが」
「だからこの堂には誰も入らず」
「それで朽ちるに任せておったのじゃよ」
「そうでしたか」
仁八は今の言葉でどうしてこの堂がここまで寂れているのかわかった。鬼がいるとなれば誰も近寄らないのが当然の道理であるからだ。そういうことだった。
「しかし。どうして助かったのじゃ」
「特に娘さん、あんたじゃ」
村人達はここでお淀を指差した。
「どうしてあんたが生きておるのじゃ」
「鬼は特に女を狙うというのに」
「女をですか」
「男と女がいれば両方共引き裂くのではなく女の方を引き裂くのじゃ」
「そしてそのはらわたを喰らう」
こうも言う。
「鬼はな。引き裂いてそのはらわたを喰らう」
「だから怖いのじゃ」
「しかし。それでよく助かったものじゃ。どうしてかのう」
「どうしてかというと」
仁八は村人達のその言葉を聞いて考えた。そのうえであの札のことを思い出したのである。
「そうか、あれか」
「あれ!?」
「あれというと」
「はい、これです」
ここでその札を村人達に対して出すのだった。見ればその札は右肩のところから左脇にかけて引き裂かれていた。見事なまでに。
「一枚
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