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乱世の確率事象改変
彼女は天を望まず
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ている。彼の存在が有り得ない、いや……彼の知識が育まれた世界こそ、この世界にとって有り得ない。まるで……

――まるで彼がこの世界とは違う世界で生きていたような……

 其処まで至った瞬間、寒気と悪寒に震え上がった。
 強制的に思考停止したのは心の底に湧き立つ恐怖から。確信を持ってしまいそうで、其処まででやめるしかなかった。
 天才と謳われるこの少女は、彼を知ろうとするあまり真実にたどり着きそうになった……彼を殺そうと考え抜いていた大敵、郭図のように。
 恋心故に、彼女は頭から追いやった。

――違う。ほら、彼はこの世界のことを知っている。有り得ないことだけど、もし私達が暮らすこの世界以外から来たなら、この世界のことなんか知らないはず。そんな可能性は、ない。今は別のことを考えないと。

 せめて伝説か言い伝えのような与えられた力であってくれと願った。それなら、まだいい。自分達の世界の人間ならばいいのだ。異民族を受け入れられない人が多くて、差別的な意識が同じ民族だというだけで緩和されるのだから、彼の受け皿は守られる。
 異世界の人間の方が人々の心は恐怖を覚えるだろう。異民族如きを受け入れられないこの大陸が、そんなバカげたモノを受け入れられると考える方が愚かしい。誰かしらその異端を侵略者として認識し、排除するのに躍起になるに違いない。
 人の歴史では差別はありふれている。素晴らしい人だからというだけで受け入れられるなら、その世界は甘くて優しい理想郷。乱世など、きっと起こり得ない。

 ぎゅうと目を瞑って追い遣った。
 そちらでなくとも結論は出た。彼が壊れた理由と、何故劉備の元で戦っていたか、その結論だけでも。
 才持ちし者達が評価され、より大きな平穏の為に尽力する世界を目指しているのに……自分だけは特別な力と異端知識を持っている。
 結果として平穏を齎せたとしても、出来上がったモノは人の努力を唾したマガイモノ。天の介入を許した機械仕掛けの箱庭。
 暮らす人からはよくても、多くの人は望もうとも、彼はそれが嫌なのだ。そうして誰にも話さず、一人ひた隠しにして嘘を付く。

 矛盾があるということは付け入る隙があるということ。人は足掻き抗うイキモノで、救国の英雄を嘘つきの化け物として殺すのも人間である。
 遥か遠くヨーロッパの聖処女が魔女狩りで殺されたことも、ブリテンの救いに尽力した騎士王が臣下の裏切りで殺されたことも……知らぬ彼では無い。
 雛里には分からずとも、英雄の行き着く先にある可能性の一つとして、殺される未来は考えられる。
 ずっとずっと彼が注意喚起して、抗う力を与えて来たから、雛里は間違わない。
 彼が人々に与えたいのは……天に作られる平和を守る為の力ではなく、人々が自分達で望む平穏を己自身で奪い取らんとする力
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