5部分:第五章
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第五章
「だから。ここでは駄目よ」
「わかりました」
清子に言われるままそれに従う少年だった。
「じゃあ。ええと」
「いい場所を知っているわ」
今度は清子から場所を指定してきたのだった。
「いい場所ですか」
「そうよ。そこで詳しいことをお話しましょう」
目を覗き込みながら語る。少年のその色が虚ろになってしまった目をだ。その目をじっと覗き込みながらの言葉であった。
「それで。いいかしら」
「・・・・・・はい」
声まで虚ろになっていた。その虚ろな声で答える。
「それで御願いします」
「わかったわ。それじゃあ」
また目を覗き込み。語る言葉は。
「来て」
一言だった。その一言に誘われて少年もふらふらとその場を後にする。清子と共に連れて来られたのは学校の近くの神社であった。その神社の境内に二人で入りそれから。さらにその社の中に入り戸を閉めてしまったのだった。
「これでいいわ」
清子は戸を後ろ手で止めてから述べた。戸が閉められてから後ろに差し込む微かな光を背に言葉を出すのだった。
「これでね」
「あの、どうしてここに」
「二人きりになる為よ」
前に立っている少年に対して述べる。彼はここでもおどおどとしている。
「二人きりにね」
「けれどここは」
「駄目だっていうの?」
「ここで。何をするんですか?」
それが不安だったのだ。知らないということは何よりも不安を増大させるものだから。その心の中にある不安を。彼はその不安の中で怯えていたのだ。
「僕達は」
「安心して。命は取らないわ」
「命・・・・・・」
「普通はね」
こう少年に対して語るのだ。姿勢はそのままですっと一歩前に出ていた。
「命は取らないわ」
「命って、一体」
「貴方はこれからのことを覚えてはいない」
不意に出た言葉だった。清子の口から。
「決してね。そして思い出すことはないのよ」
「決して・・・・・・ですか」
「そう」
彼の言葉に頷いてみせる。その間にもまた一歩前に出ていた。しかしその足は動かない。まるでその場にそのまま立っていたかのように進んでいたのだ。
「決してね。だから教えてあげる」
「何を・・・・・・」
「私のことを」
その言葉を出した時にはもう彼のすぐ目の前まで来ていた。やはりその目を覗き込んでいる。
「私は。もう長い間生きているのよ」
「長い間!?」
「そう。気の遠くなるような間を」
言葉は続く。澄んだ声だがそこにはえも言われる妖しいものもあった。その妖しさを済んだ声に含ませながら言葉を続けるのであった。
「生きていたのよ。私は」
「どれだけの歳月を」
「さあ」
その言葉には答えない。答えられないのであろうか。
「わからないわ。それは」
「わからないって」
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