5部分:第五章
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「どれだけね。平安の都にいた時も」
遥かな昔のことだった。
「その都が出来た時も。憶えているけれど」
「それでも。何時生まれたかは」
「憶えてはいないわ。それだけの歳月を生きているのよ」
「じゃあ貴女は」
「ええ」
彼の言葉に頷く。静かに。
「そうよ。人ではない」
「人じゃない・・・・・・」
「人の世にある人ならざるもの」
目が赤くなっていた。赤く輝く目で彼を見ていた。
「それが私なのよ」
「貴女が・・・・・・」
「そして」
その言葉と共に足の下から何かが出て来た。靴から生じたそれは忽ちのうちに八方に広がり網を作った。白い、絹に似た糸の網だった。
「私は人を食べるわ。けれどそれは」
「僕じゃない」
「いつもはそうなのよ」
いつもは、と言った。
「いつもはね。ただ無粋な輩には違うわ」
「無粋な輩って」
「消えた不良達がいたわね」
噂になった失踪した不良達だ。彼等が消えた理由はそこにあったのだ。今他ならぬ彼女の口からそのことを語るのだった。
「あれよ。ああした輩は生きていて仕方がないから」
「それで」
「食べたのよ」
今度は一言だった。
「それだけよ」
「それだけって・・・・・・」
「生きていても仕方のない輩はいるわ」
澄んでいるが冷徹な言葉を口にした。まるで氷の様な。
「だから。食べたのよ」
「食べた・・・・・・人を」
「安心して。普通の人は食べないのよ」
また語る。少年の耳にではなく心に語り掛けるように。語るのだった。
「貴方もね。それはさっきも言ったわね」
「・・・・・・はい」
「全てを忘れて。全てを思い出さずに」
さらに少年に近付き彼を抱き締め。それからその首筋に接吻をして囁く。
「楽しみましょう」
翌日彼は清子に告白したことを囃されたがそのことは全く憶えてはいなかった。まるで幽玄の世界にいたかの様にぼうっとしているだけだった。そんな彼に対して皆首を傾げるだけだった。しかし本当に何も憶えてはいないので何を語っても無駄なのだった。どうしても思い出さないのだった。
その数日後にはまた清子に声をかける者がいた。今度は彼女の通っている学校の教師だった。まだ赴任したての独身の女教師だ。初々しさの残る美しい女だ。
「あの、姉小路さん」
「はい
廊下で声をかけられた。それで顔を彼女に向けた。
「何でしょうか」
「今日ね」
冷静さを装い教師としての仮面を被っているがその肌は上気していた。彼女に対してどういった感情を抱いているのかそれでわかる。
「時間あるかしら」
「何時ですか?」
「放課後だけれど。ちょっと聞きたいことがあって」
こうは言い繕っているがそれは言い繕いに過ぎない。その心は別なのだった。
「いいかしら」
答えるその一瞬前
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