暁 〜小説投稿サイト〜
或る短かな後日談
後日談の幕開け
三 変異
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われ――違う。彼女を襲っているわけではない。肉蛇たちが向かうのは、あの、巨大な怪物。牙を立て、噛み千切り、飲み込み――その根は、他でもない。マトの体から伸びていて。
 あれは。あれは、マトだ。マトの体から這い出し、敵を襲う……変異させられた身体の一部……それが。彼女の敵を食い。そして。彼女の意思を蝕んでいるのだと。

 彼女の元へ行かないと。あんな、あんな。悍ましい何かに巣食われて。自分の一部として飢え付けられて。正気を保てるはずがない。

 理解するが早いか。駆け出そうと……けれど。動けない私の、傍ら。過ぎ去る影、それは、すぐに。私の視界に、見慣れた姿として浮かんで。

「マト! マトっ!」

 声を張り上げ走り出した彼女は。アリスは。立ち竦んだままの私を置いて、マトの元へと走り寄って。


 その時。私は。肉蛇に噛み付かれ、それでも残る数本の足に、粘菌に塗れ、傷だらけの。その怪物が、力を込める姿に気付いて。


「アリス――」


 声は。届かない。足は動かず。手は。
 手は、掴めない。

「ッ――」

 動かない足、竦んだ心。弱い、弱い。自分を。
 穿つように。殺すように。舌を噛む。犬歯を捻じ込み、溢れ出した血は、粘菌は、痛覚を失っても尚記憶にこびり付いた痛みを思い起こさせて。

 二丁の拳銃は、飛び掛る怪物――アリスを狙った怪物を捉え。吐き出した銃弾、固まりきった笑みを貫き。


 けれど。


「ぁっ――」


 開き切った顎は。アリスの小さな体、牙を突き立て、咥えるように。私の銃弾、受けても殺せぬ勢いは。私の真横、そのままの速度で。
 過ぎる。過ぎる、瞬間。

 恐怖に染まる顔。アリスの顔。叫ぶ声が今は、けれど、まるで、音を失ったかのように。繋がった視線、助けを求めて宙を掻く腕。彼女の手を。

 掴もうと。手を、伸ばし。





 指先。掠め。確かに。彼女の指先と。触れた、確かに、触れたというのに。



 叫んだ。彼女の名は。過ぎ去る怪物、アリスを連れて逃げ出すそれが。遠ざかる通路に、響くばかりで。



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