番外『有り得ぬ世界』
交節・ぶつかりし狂気は紅(あか)と青
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殺せ……その赤き刃で殺してくれ、この “私” を」
「……」
「お前のような猛者に殺されるのならば、この上なく本望だ」
満足げに言葉を紡いでいくアオに、女性は何の反応も返さない。
数秒とも、数分とも取れる静寂、そして硬直の後……女性はスコーピオンを振り上げ、頭上でクルクルと回転させ始めた。
己の命が尽きる瞬間を、死後の世界まで目に焼きつけようと、その瞬間をひたすらに待つ。
回転速度は徐々に遅くなっていき、唐突にピタリと止まって―――振り降ろされた。
アオの、顔面横に。
「はい、これにて終了です♪ 解りましたね?」
「……は?」
アオの表情が初めて歪み、何を言っているのか分からないと言った表情と、間抜けなまでの困惑が広がる。
女性は肩にスコーピオンを担ぎ直し、背を向けてゆっくり歩いて行く。
「私とて、殺す事も厭わないでしょう……ですが、目的と楽しみは『ソレ』ではないのです。人は命あるからこそ足掻き、失う恐れから?く。その中でのやり取りが、生き残るためのシンプルなバトルが、私にとっての楽しみなのです♪」
「何を……言って……?」
傾けていた顔を正面へ戻し、女性は歩く事を言ったん止め、未だ呆けている青へと言葉を投げかける。
「死にたがりを相手にしようとも、忌避感を持たぬものを目の前にしても、それは何の緊張も無い……そして何も起きはしない、力だけの世界。感情が虚ろな貴方では、何も生まれず探求出来ず、私の中に入って気はしなかったので―――」
「ま、まて、“私に” っ……お、“俺” に止めをッ……!」
次の言葉を聞きたく無い一心で、アオは持ちあがらない体を必死に擡げる。
「ではこれにて……ちゃお?」
……現実は、待ってはくれなかった。
「待てっ! 殺せ! 殺していけ!! 俺を殺せ! 殺せぇっ!!」
彼女の背に向けて、幾度となく呼び掛ける。
「殺してくれえぇ……っ!」
だが、彼女は二度と振り向かず、アオの声が荒野の遺跡にコダマするのみであった。
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