6部分:第六章
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「今日は誰じゃ!?」
問うてみた。やはり答えはない。そもそも答えなぞ期待してはいなかったが反応がないのはやはり寂しい。
終わったとは思わなかった。とりあえず様子を探った。
「ふむう」
気配はない。とりあえず休もうとしたその時であった。
不意に何かが壊れる音がした。庭の方だ。
「あっちか」
そこには壁はない。竹の柵である。これは朝顔を絡み付かせる為であった。
「何が来たか」
平太郎は玄関に向かいながらそう考えていた。恐怖はなかった。何故か期待があった。
庭に来るとそこは真っ暗闇であった。何もなかった。
「音だけか」
しかしそれは早合点であった。立ち去ろうとした彼の首筋に生暖かい風が吹いてきた。
「来たか」
後ろを振り向く。やはりそこにいた。
それは巨大な醜い老婆の顔であった。大きさは二畳程であろうか。その顔は平太郎を見てニヤニヤと無気味な笑みを浮かべていた。
「大首か」
彼はその妖怪の名を知っていた。とりあえず聞いているのは髪に触れてはいけないということだ。話によると髪に触れると病になるという。
「さて」
見たところここにいるだけで害はない。だが鬱陶しくて仕方がない。
「退くがいい」
彼は小柄を出してそれで眉間を突いた。だがそれでも大首はニタニタと笑っていた。やはりあやかしだけあってこれ位では何ともないようだ。
「どうしたものか」
彼は考えたがどうにもならない。刀で突いても結果は同じだと読めていた。
ならば何をしても仕方がない。小柄はそのままに寝室に帰った。そしてやはり壁を背にして眠った。
「少しは寝転がって休みたいのう」
そう思っても相手は化け物である。用心にこしたことはない。彼は用心の為にそうして眠った。とりあえずは今夜は少しでも多く眠れそうなのが救いであった。
朝になった。目を醒ました彼は昨夜大首がいた場所に向かった。やはり大首は消えていた。
そのかわりに小柄が宙に浮いていた。彼が前に来るとポトリと落ちた。
「昨夜の物の怪の忘れ物かのう」
彼は小柄を手にして笑った。そしてそれを鞘に収めると家の中に戻った。
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