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極短編集
短編64「花と花瓶」
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 今日は美術の授業があった。花と花瓶の写生だ。

「はあ、めんどうやなあ」

 僕は、ため息をついていた。僕は、こういうのが苦手なのだ!キチンと描けた試しがない。今だって、花瓶だが洗面器だかわからんもんができちょる。

「男と女は花と花瓶なんやて」

 隣に座っていた陽子が急に言い出した。

「はあ?」

「男子は子どもだで、ようわからんやらぁ?」

「なに〜!」

「ほらそこ!静かにっ。中2は中だるみの時期だからって、ちゃんと描かないと内申に響くよ!」

 美術教師が言った。僕らは、スケッチブックに隠れながら、小さな声で話した……

「解っとるわ!なら、お前の花瓶みせてみ」

「え!?」

 陽子は言葉に詰まったようだ。

「なあ、見せてみ!」

「なら、あんたの花!見せれるんか?」

「おう、見せたるわ!だから、お前の花瓶、見せてみ」

 陽子は顔を真っ赤にしていた。それから、かすれそうな声で言った。

「……大切にしてくれるなら……見せてもええよ」

「なら、今日。お前んちでええか?」

「えっ、うちはあかん」

「なら、どこがええ」

「……じっ、神社……」

「分かったわ。なら、神社なっ。立派な花、見せたるわ!」

 学校が終わり、僕は家に帰り身支度を整え神社に向かった。神社に着くと、先に陽子が来ていた。

「持って来たで!」

 と、僕が言うが早いか、陽子に腕をつかまれ神社の裏に連れて行かれた。

「向こう向いてて!」

「はあ?」

「早よ、向こう向いてっ」

 陽子に言われ、渋々、僕は向こうを向いた。 カサコソと音がした。

「ええよっ」

 僕が振り返る。陽子が目を横に伏せながらモジモジと立っていた。

「せーので見せよう!」

 と、僕が言うと、陽子は小さく……

「うんっ」

 と、返事した。

「せーの!」

 僕は後ろ手に隠した花を出した。 婆ちゃんが育ているコスモスの花だ。これなら陽子が喜ぶと思った。
 陽子は……

「!?」

 陽子はスカートのすそを握り、めくり上げ立っていた。

「えっ!?」

「あっ!?」

 僕らは目を見合わせた。

「きゃあ!」

「わったたた!」

 僕らは同時に、後ろに振り向いた。

「なにしとるんや、お前!」

「なんで!?なんで花なんか出とるの!!」

 陽子が急いで、履いてる音がする。

「あいたっ!」

「大丈夫かっ?」

「見ないでっ!」

 どうやら転んだらしい。

「もう、こっち見ていいよ……」


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