MR編
百三十九話 医療と直方体
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もまた、不可能なのである。
「……木綿季くんは、2011年の5月生まれです。難産でしてね……緊急の、帝王切開が行われました。その時、カルテでは確認できなかったのですが、なんらかのアクシデントによって、大量の出血があり、緊急輸血が行われました……その血液が、残念ながら汚染されていました」
「…………ッ!」
エレベーターから降りて幾つかのセキュリティゲートをくぐり廊下を歩いていた倉橋は、その言葉に息を詰めた二人の少女を一瞬だけ横目に見て、けれどすぐに続けた。
「今となって確たることは分かりません、ですが恐らく木綿季君やお母さん達が感染したのその時、お父さんはその後一カ月以内だと思われます。……九月にウィルスの感染が判明した時には、既に、家族全員が……」
「…………」
其処まで話して、倉橋医師は脚を止める。[第一特殊計測機器室]とかかれたその部屋のスリットに医師がカードを通すと、小さな機械音に続いて、ぷしっ、と小さな音が響き扉が開いた。
そこは、奇妙の細長い部屋だった。奥に入ってきたのと同じように扉が一つ。右側の壁は幾つかのモニターとコンソールがある。しかし一番の特徴は左側の大きな窓だった。ただ、今は黒く染まっており内部を見る事が出来ない。
「この先は無菌室なので、入室は出来ません。了承してください」
「…………」
倉橋の言葉に、涼人は小さく息を付いてガラスを見る。彼が軽くコンソールを操作すると、再び小さな電子音が響き、ガラスから急激に色が取り除かれて行き……向こう側の部屋が現れた。
面積自体は決して狭くは無い。しかし部屋全体を大小様々な機器類が埋め尽くしている性で、体感的に狭苦しく感じる部屋だった。その中心に、大型のジェルベッドが会った。
其処に、一人の小柄な身体が横たわっているのが見える。
「……メディキュボイド……」
生まれてはじめて見るそのVRシステムに、涼人が思わず声を漏らす。
ベッドの中心に横たわる身体はベッドの青いジェルマットと、多くのチューブに囲まれ、最早見るだけで痛々しい程に痩せこけていた。
顔は分からない、メディキュボイドの中心となるベッドと一体になった直方体がその殆どを包みこんでいる為、顎や唇が少し見えるだけ。直方体の側面にはモニターが表示され、其処には様々な表示が映し出されている。
「ぁ……」
「……ユウキ……?」
絞り出すように小さく呟く美幸の隣で、明日奈がふらりと脚を踏み出し、ガラスに張り付く。絞り出すような声が、遂にその問いへと行きついた。
「……先生……ユウキの病気は……何なんですか……?」
「…………」
いたわるような眼をした倉橋医師が、短く、しかしはっきりと告げた。
「《後天性免疫不全症候群》……AIDS(エイズ)です」
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