MR編
百三十九話 医療と直方体
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笑んで、倉橋医師は頷くと静かに立ち上がる。
「木綿季君の病室は中央棟の最上階にあります。少し遠いですから、歩きながら話しましょう」
歩き出した倉橋に続いて、三人もまた歩み出す。中央棟のロビーにはエレベータが三基あり、その内一つは専用のカードキーをかざさねば稼働しないタイプの物だった。シンプルな書体で《staff only》と表記されたその扉を倉橋医師が開け、四人は白く照らされた箱の中へと乗り込む。殆ど加速感の無いままエレベーターが上昇し始めると、倉橋医師は不意に口を開いた。
「《ウィンドウ・ピリオド》という言葉を知っている人はいますか?」
「……?」
何処か悪戯っぽく、講義をするように問うた倉橋医師に美幸が首を傾げた。明日奈も少しだけ苦笑すると、その言葉の答えを求めて記憶の中をあさる。
「確か……ウィルスの、感染かなにかに付いての……」
「感染後のウィルス検出空白期間の事っすよね?」
何とか浮き上がらせた単語を呟く間に、涼人が確信したように答えた。意外な所からの回答にやや驚く明日奈や美幸に、珍しく彼女達より問題の答えが早く出たことに少しだけわざとらしく胸を逸らす涼人。そんな様子をやや楽しそうに眺める倉橋は、コクリと頷いて続けた。
「正解です。メディキュボイドの事と良い、桐ケ谷さんは中々博学な方ですね」
「授業の事は覚えないのに……」
倉橋の言葉にやや不満げに言った明日奈に、またしても彼は笑った。
《ウィンドウ・ピリオド》というのは、人間がウイルス。及び細菌に感染したと疑われた場合に行う血液検査に置いて、特定の病原体に感染していても、その感染を検出する事が出来ない空白期間の事だ。
人体に病原体が感染した場合、病原体は其々の方法で体内でその数を増やし、勢力を強める事で身体に悪影響を及ぼす訳だが、その病原体の数が少なすぎると、血液サンプルを取って、血液を検査しても、その病原体が検出出来ない事がある。
この感染してから検出出来るようになるまでの期間を、《ウィンドウ・ピリオド》と呼び、これは現代の技術で短縮はされたものの、決して0にする事の出来ない絶対的な限界でもある。
そしてこの空白期間が存在する為に、必然的に起きてしまう事故(或いは人災)がある。輸血用血液製材の汚染である。
《ウィンドウ・ピリオド》によって検出されないまま細菌を持って生成された血液製剤をそのまま人体に用いた場合、当然、その細菌は輸血された側の人体に入り込む。其れが致命的な感染症であろうとなかろうと、容赦なく、だ。
無論、一度の輸血でそれらの事態に遭遇する事はごくごく稀な事では有る。確率で言えば数万分の一以下の確立だ。しかし、《ウィンドウ・ピリオド》による血液汚染すり抜けの確立を0に出来ない以上、これらの事態が起こる確率を0にすること
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