MR編
百三十九話 医療と直方体
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いえ。私は何も……でも……」
其処まで言って、明日奈は涼人の方を見た。彼は少しだけ視線を俯かせると、肩をすくめて返す。
「一応、基本的な知識くらいなら、俺は。此処が日本唯一の臨床実験施設……でしたよね」
「おや……ではもしや……」
「はい。《メディキュボイド》って名前から、此処を割り出してくれたのはキリトく……彼と、彼の従弟なんです」
感心したように言った倉橋医師に、ややバツが悪そうに涼人は頬を掻いた。それなら話が早いと言う風に、医師は話し出す。
メディキュボイド、とは、現在日本が国家レベルで開発を行っている、世界初の医療用専門フルダイブ機器の名称である。
元来、VR技術と言うのはその性質上、医療との関係性を切っても切り離せない者として、その新たなる医療の扉としての役割を大いに期待されて来た。
身体の感覚器官を解すること無く脳に直接五感の情報を送り込めるVRシステムは、身体のそれらの部分に何らかの障害のある人々であっても、五感の情報を感じる事が出来るようになるからだ。
生まれた瞬間から音と言う概念を知らない少年が、音楽を感じる事が出来る。人の声を感じる事が出来る。色と言う概念を知らない少女が、森と湖と、世界の色彩を感じる事が出来る。四肢の感覚を知らない人々が、山河を走り、水を自らの手で掬い上げる事が出来る。
既に何年もの間意識の戻らない人々と、自由にコンタクトを取る事が出来る可能性すらあるのだ。
また、感覚器官だけの話では無く、対感覚キャンセル機能を応用した、麻酔効果が期待されている。現在でも事故の危険性を微笑ながら残す全身麻酔の使用を減らす事で、完全に事故を無くすことが出来るとされているのだ。
ただ勿論、現行のフルダイブ技術をそのまま用いれば良いと言う訳では無い。
現状、安全性の観点からアミュスフィアやナーヴギアによって体感覚をキャンセルできるのはあくまで低レベルの物に限られているので手術のような強い体感覚キャンセルが必要なパターンには運用できないし、逆に感覚器官を使用する物として理想的な、現実世界との同期運用によって一部の感覚器官をVR世界から現実世界への置換させる……所謂《AR(拡張現実)》技術と組み合わせての運用は、全体的なスペック的な観点から実現が難しい。
そこで、それらを実現する為に、パルス素子の増強、出力、処理速度の上昇などのハイスペックなVR機器として、メディキュボイドが開発されているのである。
まさしくして、《夢の機械》として開発されたこれは、今、この病院での臨床テストによって、確実に実現への歩みを進めているのだった。
「《夢の機械》……」
「えぇ。ただ……ね、そんなメディキュボイドでも、やはり機械は機械です。当然機械には限度がある」
「……?」
其れまで明るいトーンで話
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