20部分:第二十章
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を落とした。
さっぱりした気持ちで居間に来るともう夕刻であった。空は次第に赤くなってきていた。
「また夜になるのう」
最近ではそれが待ち遠しかった。今宵は何が出て来るのかと思うだけで楽しくなる。
いそいそと夕食を採り化け物を待った。空は赤から紫になっていった。
その濃紫の空に無数の星達が瞬いている。赤い星もあれば青い星もある。晴れ渡った夜空に無数に煌いていた。
「いいのう」
平太郎はその星達を満足気に眺めていた。星も好きである。
「天の川まで見えるわ。そういえば今年は七夕まで考えが及ばなかったわい」
それが残念であった。実は彼は毎年あの二つの星を眺めながら酒を飲むのを何よりも楽しみとしていたのだ。
だが見過ごしたものを今思っても仕方のないことであった。彼は来年見れたら見ることにした。
「その頃までに覚えておればよいな」
ひょっとすると忘れるかも知れない、もしかしたら死んでいるかも知れない。人の一生とは一寸先のことすら全くわからないものであるからだ。
星を見飽きると今に戻った。そこでゆっくりと化け物を待つことにした。
「さて今宵は何が出るかのう」
待っていると不意に一陣の風が吹いてきた。涼しい風であった。
「野分が去ったのにか」
面妖に思ったがこれもまた化け物の来る予兆と思うと納得がいく。ではそろそろ今夜の客が姿を現わす頃だ。
「来るか」
平太郎は敷物の上に座った。そして客を待った。
「今宵は何かな」
やがて障子の向こうに影が現われた。男の影だ。
見ると異様に大きい。丈は平太郎の倍程はあろうか。
「大入道かのう」
まずはそう思った。何かと思っているうちにその影の主が居間に入って来た。
「む」
見ると大入道ではなかった。確かに大きいが身なりのよい中年の男がそこに立っていた。
「お主は一体何者じゃ」
見れば本当に立派な服を身に着けている。能花色の帷子に浅黄色の袴、腰には両刀がある。歳は四十位で恰幅のよい身体つきをしている。見れば顔相もかなり良さそうだ。その背丈を覗けば大きな家の大名と言っても通用するであろう。そこまでの気品と風格が備わっていた。
「我か」
その男は問われてゆっくりと口を開いた。重く低い声であった。
「我は山本五郎左衛門という」
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