20部分:第二十章
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ない。彼はもうこの老婆に言うことを止めにした。
「一人で飲むとするか」
そして酒盛りをはじめた。暫くして上から女の騒ぐ声が聞こえてきた。
「先程の手の主達じゃな」
ここでようやく先程の手が何故全て女のものであったか合点がいった。つまりあの手は今天井で騒いでいる者達のものだったのである。
声は確かに騒がしい。だがその他にはこれといって何もない。別に天井が下がってきたりとか落ちてきたりということもないようだ。
「ならばよい」
彼はそう割り切った。むしろ逆にこの声を酒の肴にすることにした。
「女の声を聞きながら飲むのもまた一興」
そして酒を口にした。耳を傾ける。だが何を言っているかまではわからない。
「姦しいだけかのう」
遠くから何やら風の音が聞こえてきた。どうやら只事ではない。
「野分か」
夏である。野分が何時来てもおかしくない季節である。
風は次第に強くなってきた。平太郎はそれを見てすぐに立った。
「すまんが今はお主等の相手はできぬ」
老婆と天井にそう言うとすぐに家の戸締りにあたった。そしてそれが終わり居間に戻るともう老婆も天井の声も何処かへ消えていた。
「野分を感じたのかのう」
もう跡形もなく消えたその跡を見ながらそう思った。平太郎はまた飲みだした。野分なら外には出られぬ。酒はふんだんにある。
「これも化け物の土産じゃな」
彼等からもらった樽の酒にも手をつけた。そして心ゆくまで飲みそのまま寝た。
起きるとやはり野分が来ていた。外から激しい風と雨の音が聞こえてくる。
「やはりのう」
彼の予想は当たった。とりあえずは二日酔いを抑える為また飲みはじめた。
「迎え酒じゃな」
出られないのなら飲むのが一番だ。彼はまた飲みはじめた。
昼になると風も雨も次第に弱まってきた。どうやら通り過ぎたようだ。
「行ったか」
平太郎は固く閉じていた雨戸を開けた。するとそこには一面の青空が拡がっていた。
「おお」
実に綺麗な空であった。雲一つない。そして陽が雨にまだ濡れている地面を照らしていた。
水溜まりにその陽が映っている。光を反射してまるで鏡の様である。
「これは絶景じゃ」
平太郎は大喜びで外に出た。そしてそのまま村の中を歩き回った。
そうやらあまり大きな野分ではなかったようだ。少なくとも風は大したことはなかったのか家々に被害はなかった。
雨は凄かったようである。川はかなり水かさが大きかった。
「大事はなかったようじゃな」
彼は村を見回してそれを確認した。そして今度は家に戻り馬を出してきた。
それに乗ると辺りを走り回った。酒は歩いた時にあらかた抜けていた。
「飲んでばかりだとなまってしまうわい」
辺りを駆け回った。それでひとしきり汗をかくと家に戻り行水で汗
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