19部分:第十九章
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第十九章
それからその日は道場も休みなので修練に励んだ。木刀を振り水練をしに川へ向かった。汗をかき水で身体を冷やした。終わった時は実に気分がよかった。
二十七日は夜遅くになっても化け物は姿を現わさなかった。彼は蚊帳の中で寝転がりながら化け物を待っていた。
「今宵は遅いのう」
楽しみにしているというのに何ということだ、と内心憤りすら感じた。
「まあこのまま待つとしよう。来なかったらそのまま寝ればよい。来たら奴等が起こしてくれるだろう」
いささか勝手な考えを抱いていた。そしてそのままうとうととしだした。
すると早速出て来た。暗闇の中で何かが彼の頬を撫でた。
「来たな」
目を開けると目の前にいた。見るとそれは手であった。
「これは」
それも女の手だ。上から伸びている。
よく見ると上へ繋がっている。その付け根には何やら丸く大きなものがあった。
そこには女の顔があった。平太郎を見下ろしてにたにたと笑っていた。
「ふうむ」
彼はそれを見て思った。最初の頃に出て来たあの髪の毛で進む女の首に似ていなくもない。
だが何かが違う。あの首に比べて恐ろしさが少ないのだ。
「わしが慣れたせいかのう」
だがどうも違うようだ。この首は手で平太郎の頬を撫でた後はこれといって何もして来ないのだ。
ただ彼を覗き込んで笑っているだけだ。無気味な笑いであるのは確かだが他には何もない。
やたら大きな首ではある。それだけで平太郎の身体の半分程はある。白粉とお歯黒で化粧をし髪はちゃんと結ってある。見れば中々整った顔立ちである。
「こんな女と夫婦になりたいものじゃな」
そう思わせる程の顔であった。だがこの女は人ではない。見ただけ迷うことなくわかる。
「残念なことじゃな。まあ退屈はしておらぬが」
彼は笑いながらこの首と正対していた。首はやはり笑うだけでこれといって何もしては来ない。
やがて跳びはねながら姿を消した。そして蚊帳も障子もすり抜けて姿を消した。
「いったか」
静かになった。そうなると自然に眠くなってきた。
「では休むとするか」
いささか拍子抜けしたところもあるが暫くぶりに変わった妖怪を見ることができた。それで満足したと言えばした。彼は目を閉じた。気が着くともう朝であった。
二十八日は遠くに何やら光が見える。それも一つではない。
無数にある。それは青白く蛍のそれにしては奇怪な光であった。
「さては」
今宵の妖怪かと察した。それを見る為に庭に出ようとする。
踏石の上の下駄に足を入れる。すると何やら異様に冷たい。
冷たいだけではない。ぶにゃりと柔らかく、しかも足に粘りついてくる。何とも言えぬ妙な感触だ。
「蒟蒻を踏んだみたいじゃな」
そういえば似ている。この冷たさと柔らかさ
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