第四十八話 薊の師その七
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「折角じゃからな、お茶でもな」
「お茶ですか」
「そうじゃ、わしは昔からお茶が好きでのう」
野球について語る困った様な笑顔ではなく飄々とした笑顔になっていた、その笑顔で少女達に対して話すのだった。
「今もよいお茶があってな、お菓子もあるぞ」
「お菓子もですか」
「月餅じゃ」
これがあるというのだ。
「これがまた美味くてじゃ」
「あの中国のお菓子ですね」
「中華街の本家さんの贈りものじゃ」
「あっ、そのことも薊ちゃんから聞きました」
裕香は王にすぐに返した。
「横浜の、ですね」
「そうじゃ、今も横浜スタジアムに行くし中華街にも行くしのう」
「いいところなんですね」
「あんた達も時間があれば行くといい」
その横浜にというのだ。
「ここからすぐじゃしな」
「明日帰るけれどな」
薊は微妙な顔になって述べた。
「行けるかな」
「今日はどうするのじゃ?」
「ここ案内しようと思ってるんだ」
薊はこう王に答えた。
「横須賀をな」
「そうなのじゃな」
「明日帰るってなると」
「横浜は少し難しいのう」
「そうだよな」
「まあそれならそれでじゃ」
行けないならそれでいいとだ、王は割り切ることにした。そうして薊に対してあらためてこう言ったのだった。
「横須賀に専念することもな」
「いいか」
「ここも観るべき場所が多いからのう」
「海自さんの基地行って中央の駅前もじっくり回って」
「巡る場所が多いからのう」
「だから今から行って来るんだよ」
「そうか、楽しんで来るのじゃぞ」
弟子というより孫娘に対する感じでだ、王は薊に言った。
「皆でな」
「しっかりガイドしてくるよ」
「そうしてくれると何よりじゃ、しかし」
ここでだ、王は薊をあらためて見てこうも言った。
「気が変わったのう」
「気がかい?」
「相当な鍛錬を積んだのかのう」
こう言うのだった、薊を見つつ。
「そうなのかのう」
「まあちょっとな」
「過酷なことがあったのう」
王の目は細いがその細い目に心配するものが宿っていた。
「そうじゃな」
「まあそれはな」
戦いのことはだ、薊は見抜かれているとわかりつつも誤魔化そうと思った。だが王はその薊に言った。
「大抵の娘達もじゃな、薊ちゃんと同じじゃな」
「?まさか師匠も」
「いやいや、詳しいことは知らぬ」
それは、というのだ。
「ただ、目を見ればじゃ」
「わかるってんだな」
「そういうものだからのう」
「目か」
「目は人生を語るものじゃ」
実際にだ、王は薊のその目を見ていて語っていた。
「薊ちゃん達の目も他の皆の目もな」
「これまでのことが出てるのか」
「よくな、しかし薊ちゃん達は生きてきてじゃ」
王は暖かい声で語るのだった。
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