第四十八話 薊の師その五
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「暖簾分けみたいに引っ越してきて、本家さんは今でもあっちにいるそうだよ」
「横浜になのね」
「ああ、とにかくな」
「今からこのお店にね」
「入ろうな」
こう話してだ、薊が店の扉を開けた。すると。
二十代の男の人、角刈りで髪の毛に白いものが混じっている人がお客さんの頭のシャンプーをし終えたところだった。
その人がだ、薊の顔を見てこう挨拶をしてきた。
「久し振り、里帰りかい?」
「ああ、おじさん久し振り」
笑顔で応える薊だった。
「そんなところだよ」
「そうかい、暫く見なかったけれど元気そうだね」
「この通りな」
薊は笑顔のままだった、そのうえでの返事だ。
「あたしは絶好調だよ」
「ベイスターズはそうじゃないがね」
「まあな、おやっさんの贔屓の日本ハムは強いけれどな」
「ああ、北海道に行って余計にな」
「そうだよな、それでな」
薊はおじさんと野球のやり取りの後で彼にあらためて尋ねた。
「お師匠さんは何処だい?」
「親父なら道場にいるよ」
「あそこにか」
「ああ、おやっさんに用があるんだな」
「顔見せに来たよ」
それで、と返した薊だった。
「じゃあ行って来るな」
「稽古するのかい?」
「いや、今日は皆と一緒だからな」
「おお、可愛い娘ばかりだね」
おじさんは裕香達を見て目を細めさせてこうも言った。
「可愛い娘には可愛い娘が集まるってことだね」
「おいおい、褒めたって何も出ないぜ」
「女の子の笑顔が出るじゃないか」
「言うねえ、相変わらず」
「それが商売だからね」
こうしたやり取りをしてだ、そのうえでだった。
薊はおじさんに一旦別れを告げてから裕香達を今度は道場に案内した、その時に裕香は薊に店のおじさんのことを問うた。
「あの人は誰なの?」
「師匠のお弟子さんだよ」
「息子さんじゃないのね」
「ああ、息子さんは中央に出たって言ったよな」
「ヘアーサロンね」
「それであの店はさ」
「あの人が継ぐの」
裕香は薊にこのことも問うた。
「そのお弟子さんが」
「そうした話になってんだよ、もっともヘアーサロンが後継だからあっちは暖簾分けかな」
「その辺り少し複雑?」
「かもな、とにかくな」
「今度は道場ね」
「そこに行くからさ」
こう言うのだった。
「それじゃあな」
「ええ、宜しくね」
こう話してだ、全員でだった。
その道場まで来た、道場は中華風で木造であるが日本の趣ではなかった。その少林寺を思わせる道場の門のところにだ。
小柄で白髪の老人、温和な顔立ちの老人が庭掃除をしていた。その老人にだ。
薊は右手の平に左手の拳を当てた中国の礼をしてそのうえでこう挨拶をした。
「師匠、お久し振り」
「おお、薊ちゃんか」
その老人は
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