妖魔夜行
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これで大丈夫。
そう、千春に伝えようとした。
けれど、言えなかったのだ。
千春の顔に浮かんでいた表情は、解放された安堵でも、助けに来てくれたという喜びでも無い。
−−明確な、恐怖。
「ちは……る……?」
「やっ、やだ、来ないで−−近づかないで……!」
手を伸ばせば、拒絶された。
近付けば、逃げられる。
−−どうしたの?もう怖い人は居ないよ?何を怖がっているの?
そんな事を、一瞬本気で考えた。
でも、その現実は変わらない。
紛れも無い、《妖怪》に対する恐怖。
「あ……ああ……嗚呼ああ……ッ!」
溢れ出す激情。
止められない衝動。
嫌だ。
拒まないで。
受け入れて。
怖い。
寂しい。
待って。
行かないで。
−−独りは嫌なの。
−−ずっとそばに居て。
嗚咽と共に、闇がルーミアから広がった。
血の海を、ランタンの光を、ルーミアの美しい長髪から跳ね返される月の光も。
総て、全て呑み込まれていく。
−−そして。
−−誰も居なくなった。
気付けば、先程と同じ場所に居た。
血の海は綺麗さっぱり消え、千春さえ居ない。
「−−千春?どこ?」
辺りを見渡す。
夢を見ていたのだろうか。
先程の騒動など無かったかのように、辺りは綺麗だった。
良かった。
なら、千春を探そう。
そう思い、もう一度走り出そうとする。
そこで初めて、手の中の違和感に気が付いた。
何かを握っている。そんな朧げな感触の正体を見るため、それを近くの提灯の光にかざした。
妙に美味そうな匂いが漂う。好物の食べ物を目の前にしている様な。
手の中にあった物は−−
千切れた血塗れの足だった。
その血からは、千春の匂いがした。
そこでやっと、自らの口周りが汚れていることに気付く。
拭ってみれば、やはり腕には血が付いていた。
ああ、そうか。
やっと分かった。
−−結局、紫の言う通りだった。
結局、自分は。
どうしようもない、この妖怪は。
千春を、喰らってしまったのか。
「理解したかしら?」
「……紫」
「結局、人間と妖怪の共存なんて物は不可能なのよ。貴女のせいではないわ。これまでの歴史が、そうさせてしまうのよ」
「……」
「……今日、貴女は人里の決まりを破ったわ。明日、博麗の巫女が貴女を退治しに来るでしょう。覚悟はしておきなさいな」
紫はスキマ
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