10部分:第十章
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第十章
その盥が急に宙に舞い上がった。そして宙を飛び回った。
「今度は盥が空を飛ぶか」
平太郎は面白そうにそれを眺めた。
「よいぞ、よいぞ」
そして楽しそうな声を出した。
「普通にいつも風呂に入っては面白くとも何ともない。たまにはこうした余興も必要じゃ」
その飛ぶ様を見ながら水を浴びた。そして身体を洗った。
洗い終わると盥は下に落ちた。そして何事もなかったようにその場に留まるのであった。
この日はそれで終わりであった。だがまだ夜も長いので用心の為に罠を作っておいた。
「これで少しは悪戯もましになるじゃろ」
自分に対するのはいいが刀にまでちょっかいをかけるのはやはり腹に据えかねたからであった。
その日はそれ以上何も起こらなかった。やはり用心の為座って寝たがよく眠ることができた。
「何しろ寝れるのはいいことじゃ」
そう思いながら眠った。心地よい眠りであった。
次の日は朝から縄を作った。これで何かあったならば化け物を捕らえるつもりであった。やはり昨日刀を取られかけたことが気になっていたからだ。
自分にだけ危害が及ぶのはいいが他のものとなると許せない。とりあえずそれなりの量を作り終え夜を待った。
夜になると家の周りをときの声が覆った。まるで戦場にいるようであった。
「今宵は声か」
平太郎はそれを気持ちよく聞いていた。彼にとってはまるで稽古場にいるようでいい気分であった。
男の強い声は好きであった。それだから結局今夜の怪異は苦にはならなかった。
「慣れてきたかのう」
ふん、と口の端を一瞬歪めて笑った。その日はそれで何もなかった。大した日ではなかったな、と思った。
翌日は朝から用事があったので出た。彼は普段は家で仕事をするのだがこの日は外に出た。
夕刻に帰った。すると早速異変があった。
昨日作った縄が全て解かれているのである。そして全て庭に打ち捨ててあった。
「誰じゃ」
と言ったがおおよそのことはわかっていた。化け物の仕業以外に考えられなかった。
よく見れば証拠もあった。そこに大きな足跡があった。
二尺はある。人のものではないのは確かだった。それはやはり三本指であった。
その日は他には何もなかった。いささか拍子抜けするしかなかった。
「いかんのう、もう少し出手欲しいものじゃ」
平太郎は酒を飲みながらそう思った。かえって退屈であったからだ。
翌十四日もなかなか出て来なかった。何時の間にか夜明け近くになろうとしていた。
「出て来なくなったのかのう」
そう思いながら厠に向かった。あまり飲み過ぎたので近くなってきたのだ。
そこで仏壇の前を通った。するとそこで仏壇の前がサッと開いた。
「やっとか。待っておったぞ」
平太郎はそれを見て街望んだもの
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