五十六話:覇を奪いし者
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た。すぐに攻撃が来るだろうと判断して逃げ出そうとする、が―――
「バカな! 私の足を止めただと!?」
「なんで……僕の『停止世界の邪眼』をイッセー先輩が?」
「アアアアアアアアアッッ!!」
ヴィクトルの足が時を止められ動かなくなってしまう。本来、赤龍帝にあるはずの無い力に驚愕の表情を浮かべるヴィクトル。ギャスパーはその力が自身の力であることを理解して戸惑いの声をポツリと零す。だが、そんな後輩の声に答えることもなくイッセーは動けないヴィクトルに目にも留まらぬ速さで突進し彼の左腕に食らいつく。当然のことながら左腕からは真っ赤な血しぶきが吹き上がる。
「ぐうううっ!?」
鋭い刃のような牙がそのままヴィクトルの腕を容易く食い千切ると思われた―――が、それは叶わなかった。イッセーが噛みついた左腕は鎧の様な装甲に覆われており、肉を引き裂くだけに終わったのだ。フル骸殻になることでなんとかダメージを軽減したヴィクトルは驚くイッセーをフルフェイスの兜の下から怒りの形相で見つめ、空いている右手をゆっくりと上げ冷たく言い放った。
「その厄介な目を潰させてもらうとしよう」
「グギュルウウウウウッ!?」
先端が鋭利に尖った指先でイッセーの右目を容赦なく抉るヴィクトル。堪らず口を離し、右目から血しぶきを吹き出しながら悲鳴を上げてのたうち回るイッセーだったが、生まれた隙が見逃されるはずもなく今度は槍で左目を潰されてしまう。
イッセーは視界を完全に奪われた焦燥感と痛みに喘ぎながら宝玉から刃を無茶苦茶に出してヴィクトルを切り刻もうとする。しかし、すでにその場にはヴィクトルの姿はなくなっており、虫の息で倒れ伏すリアスの隣で骸殻を解き、荒い息をしながら彼の苦しむ様を眺めていたのだった。
「はあ…はあ…実に恐ろしい力だ…。もし、骸殻を纏うのが一瞬でも遅れていたら私の腕は……いや、命はなかっただろうな」
「……それでも生きている…あなたの方が…異常だわ」
血が流れ落ちる左肩を抑えながらヴィクトルが呟くと、リアスが息も絶え絶えながらに皮肉を言ってくる。そんな、倒れ伏しても誇りだけは捨てない彼女の姿勢に少しばかり感心しながらも彼はのたうち回るだけでも周囲に破壊と災厄をまき散らすドラゴンを見て思考をめぐらす。
あれと戦うのは明らかに無謀だ。勝てないことは無いだろうが本気の一撃を一発でも食らえばフル骸殻であっても一瞬で消えてしまいそうなハイリスクな戦いを好むほど彼は狂ってはいない。それに勝ったとしてもメリットが少ない。寧ろ時歪の因子化のデメリットの方が大きい。だからこそ、彼は判断を下した―――相手の自滅を待つという逃げの選択を。
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