第四話
epilogue
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「梓ちゃん、どうやらまた願いがあるみたいだね?」
鈴野夜は静かに言った。もう分かっていたのだ。彼女が自らの死期を悟り、その上で自分の家族や親族をどうにかしたいのだと…。
「ご迷惑は百も承知しておりますが…」
「今更でしょう?梓ちゃんのためだったら、その願い…叶えよう。」
鈴野夜がそう言って微笑むと、梓も満面の笑みを見せた。しかし…それが最期となった。
彼女…木下梓は、鈴野夜の手を握り締めたまま、その八十九年の生涯を静かに終えたのであった。
「笑ってるね…。」
「あぁ…笑ってるな…。」
二人はそう言うと、梓をそっと横にした。
「梓ちゃん…ゆっくり休んでね…。」
その後、二人は持てる力を駆使し、梓の最期の願いを叶えた。
梓の最期の願い…
- 皆が争わず、欲に負けることなく、仲良く幸せであってほしい…。 -
それが本当の願いであり、修も同様にそう考えて梓へ遺産配分を一任したのだ。
鈴野夜はまず、梓の亡くなった朝に親族全てをその力で一ヶ所に集めた。かなり強行な手段だが、始めに力を誇示した方が分かりやすいと考えたのだ。
尤も、梓の葬儀前に終わらせたかったと言うこともあるが。
鈴野夜はそこで、修も梓も語らなかったであろう過去を細かく語って聞かせた。
最初は欲のために鈴野夜とメフィストに食って掛かった者も、次第に静かに二人の話を聞くようになった。そして…皆は話が終わる頃には、自分達を恥じるしかなくなっていた。
祖父母の一途な愛が、今の自分達を生かしている。こうして見捨てることなく、幸せでいてほしいと思っていてくれた…。
こんな醜い争いを繰り返していた自分等を、皆は恥じる他なかったのだった。
梓の葬儀は、その三日後に執り行われた。親族は一人も欠けることはなかった。
そして、出来得る限り梓の友人、知人にも出席してもらえるよう手配していたのだった。せめてもの罪滅ぼしなのだろう。その中には、あの敬一郎も入っていた。
敬一郎はあの後、父である藤一郎から会社を継いで発展させた。あれから六年後に出会った紫織と言う女性と結婚し、子供を男女の二人儲けていた。男子には修治、女子には梓と名付けていた。
葬儀の際、敬一郎は梓の棺の前で涙を流し、「済まなかった…そして…有難う…。」と言ったという。
「なぁ…メフィスト。」
「ん?」
「梓ちゃん…これで良かったって、思ってくれるかな?」
とある公園にあるベンチに座り、鈴野夜は青空を見上げてメフィストへ問い掛けた。
メフィストも同じ様に青空を仰ぎ見、静かに返した。
「良いと思うんじゃねぇか?」
それだけだったが、鈴野夜は何か心が軽くなった気がした。
「鈴虫の
野に鳴く音の
夜を渡り
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