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メフィストの杖〜願叶師・鈴野夜雄弥
第四話
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て慌てて止めに入った。もし万が一、それが聞き届けられてアキにもしものことがあったらと…。
「いや、その願いは既に他の者より依頼され、契約は成されている。」
 ロレは微笑んでそう返すと、皆はキョトンとロレを見返した。
 そんな人達に、ロレは再び口を開いた。
「だが、あなた方からも対価を取ることになるだろう。修と梓は私が連れて行く故。」
 ロレがそう言うや、今まで呆けていた藤子と敬一郎が叫んだ。
「そうはさせんぞ!」
「梓は私のものだ!」
 二人はそう叫んでロレへと駆け寄ろうとしたが…そんな二人にロレは言った。
「愛も知らぬ虫螻めが!」
 その声は建物全体から響き、二人のみならず、そこで慌てふためく人等を硬直させた。
 その上、二人にはメフィストが後ろから回ってその耳に囁いた。
「死後の永遠と世の数十年を天秤にかけても良いがよぅ…残りの人生を地獄で暮らさせるってぇことも、俺達にゃ出来るんだぜ?どうする?」
 その声は甘美であり、また氷の刃のようでもあった。とても人間に出せる声とは思えず、二人はその場で腰を抜かしてしまった。もう何も言えず、ただ震えるしかなかったのであった。
 その折、意を決したかのように木下夫妻が立ち上がり、ロレの元へ歩み寄って言った。
「貴方は…本当にかの願叶師なのですか?」
「その通りだ。」
「では…私の息子をお委せしても…宜しいのでしょうか?」
「問題ない。」
「では…私共の対価は、何を差し出したら宜しいでしょうか?」
 夫妻がそこまで言うと、ロレはやや顔を下げ、少しばかり淋しげな目をして返した。
「それは…“時"だ。」
「“時"…とは?」
 栄吉は意味を理解出来ずに問い返した。隣の茜も首を傾げている。
 それに対し、ロレは軽く目を瞑って言葉を紡いだ。
「これからの長い歳月、あなた方は二人に会うことは出来ない。それは、二人と過ごす筈の“時"をあなた方から奪うと言うことに他ならない。それ故、それが対価となる。」
 そうロレが言うと、その場に集うものは皆、目を見開いて意味を理解した。
 強いて言うならば、会えぬ“痛み"が対価となるのだ。その辛さや悲しみに耐えること…それが修と梓が幸福になるための対価だった。
「さて…時間だな。」
 ロレが目を開いてそう言うと、修と梓は互いに手を繋いで言った。
「はい。」
 その答えを聞くや、メフィストが「パンッ!」と手を叩いた。

 すると…そこにはもう、ロレの姿もメフィストの姿も…そして、修と梓の姿もなくなっていた。





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