第四話
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繋げたのは、修の母である茜だ。
木下夫妻は、実はアキとは永い付き合いだ。先代の吉之助がアキと囲碁中間だったのだ。アキが夫の虎吉を亡くす以前からで、虎吉もまた吉之助とは戦友だったために家族ぐるみの付き合いをしていた。
しかし、虎吉は許嫁問題が拗れる以前に他界したため、この様な状態になったのだが…。
この栄吉と茜だが、一人息子の修に家を継ぐよう強要することはなかった。それ故、二人は息子を大学まで行かせ、自分で遣りたいことを探させたのだ。
無論、息子が家を継ぎたいと言えば継がせるが、それは息子自身が決めることだと考えた。そのため、梓のことも知っていながら口を挟まなかったのだ。
「修、お前がこんな演奏会に連れてきてくれるとは…正直、驚いた。」
栄吉は笑みを見せて息子へと言った。
「たまたま指揮をなさる教授と面識があったんだよ。父さん、よくラジオで古典音楽を聴いてだじゃないか。」
「さして家にも居ないのに、よく知ってたな。」
栄吉はそう言うと、茜に「なぁ?」と言って二人で笑った。
だが、その笑みには少しばかり影が差していた。
ここへ息子が招いた…きっとそれは何かがあるからだと考えたのだ。それに気付かない親ではない。だから二人は、覚悟を決めてここへやって来ていたのだ。
それがたとえ、今生の別れとなっても…。
そうしているうちに天井の明かりが消され、照明は壇上のみになった。そこへ楽員達が各々楽器を手に出てきたため、観客は拍手でそれを迎えた。
少しして全員出揃って着席すると拍手は収まったが、そこへつかさず指揮者である天河が現れた。すると再び大きな拍手が上がり、天河が指揮台の手前でお辞儀をして指揮台へ上がると、直ぐに拍手は静まった。
- さぁ、ショーの始まりだ。 -
天河はタクトを取り、凛とした静けさの中で降り下ろす。
一曲目には、ヘンデルの“水上の音楽"が華々しく鳴り響く…筈だった。
しかし、天河がタクトを降って響いた音楽は…。
「…えっ…?」
そこで響いたのは祝祭的な明るい音楽ではなく、暗く重々しい音楽だった。
「これは…“大フーガ"…?」
栄吉が不思議そうに呟く…。
そう…これは紛れもなくバッハの“大フーガ"。正確には“幻想曲とフーガ ト短調 BWV.542"…の、管弦楽編曲であった。元来はオルガン曲で、この当時でもレコードで幾人かの録音が聴けた、割合にポピュラーな作品でもあった。
だが、聴衆にとっては正に寝耳に水状態である。
「止めんか!」
そんな演奏の最中、一人の老人が怒りを露にして壇上の天河へと怒鳴った。
だが、天河はそれを気に止めることなく、尚も演奏を続けていた。
そのため、老人は壇上へ上がって天河へと直に怒鳴った。
「天河君!君は何をしとるのか理解しとる
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