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メフィストの杖〜願叶師・鈴野夜雄弥
第四話
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…と言ったところですか。」
「何…を…」
 天河の返しに、藤子はあからさまにたじろいだ。そのため、天河は顔を歪めて言った。
「その分だと、彼とも情を交わしている様ですね。やれやれ…。」
 そう言うや、天河はとっとと部屋から出ていったが、グスターヴは残って藤子へと言った。
「お前みてぇな女がいると世は腐る。尤も、お前にゃもう死後はねぇみてぇだがな。」
「な…!?」
 それを聞いた藤子の顔は見る間に赤くなり、目を吊り上げて鬼の様相を呈したが、グスターヴはそれを鼻で笑って出ていった。
 その後には藤子の罵詈雑言が響き渡るが、それ聞く者はもういない。
 天河とグスターヴはそのまま駅へ向かい、いつも通りに人混みを掻き分けて電車に乗った。
「時雨、あの女が来たってことは…。」
「そうだな…少なくとも、梓ちゃんは昨日の夜中までは家へ居たのだろう。恐らく、私達が静江夫人と話していた時に、敬一郎が伝えに行ったと考えるべきだな。」
 電車に揺られながら、天河は今日何度目かの溜め息を吐いた。グスターヴはそんな天河へとまた言葉を繋ぐ。
「そんな話ししてるってぇのに情を交わしてんなんて…あいつら動物か?」
「どうだろうね。あの藤子と言う女は性を武器にしている。子供の一人二人簡単に手玉に取れるだろうよ。特に童貞の子供にとっては、その魅力は抗いがたいのだろうさ。」
「そう言うもんか?」
 グスターヴは些か不服そうに返すと、天河は苦笑しつつ彼へ言った。
「性欲は本能の一つだ。本当はそれを制御しなくてはならないが…ソドムとゴモラがどうなったかなんて、今の時代考えもしないなだろう。」
「ああなっちまったらお仕舞いだろ?」
 グスターヴは眉を顰める。まるで藤子がソドムとゴモラそのものと言わんばかりだ。
 確かに…藤子はこの町だけでも十数人と情を交わしている。そのどれもが資産や地位を持つ男だった。
 尤も、男とてそれだけの魅力がなくば振り向きもしないため、藤子にはそれがあったのだ。だが、後数年もすればそれも使えなくなるだろうが…。
「若さとは儚いものだよ…。」
「お前が言うな。」
 沁々言う天河に、グスターヴは半眼になってそう返した。
 天河の容姿は上等だ。言い寄る女性は数多といるが、天河は決して情を交わさない。それどころか、一人の女性を一途に愛し続けていた…四百年近くずっと…。
「グスターヴ。人は…誰か一人だけを愛し抜けないものなのかね。」
「どうかな。少なくとも、俺は一人だけそう言う奴を知ってるがな。」
 グスターヴはそう言って天河を見て笑う。そんなグスターヴに、天河は少しだけ翳りのある笑みを返したのだった。





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