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メフィストの杖〜願叶師・鈴野夜雄弥
第四話
V
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あら、それはどうかしら?洋介さんがそれを許すなんて思ってないわよね?本当、もう頭が耄碌したのかしら?アハハハハハ…!」
 なんと言う言い草か…。いや、こんなのは可愛い方と言えようか。
 実を言えば、アキは会社の大半の役員と繋がっている。元は夫の寅吉と二人で立ち上げたのだ。実力で言えば、息子の洋介より遥かに上なのだが、息子のために口出しを控えているのだ。息子が社長として全員に認められるよう…。
 そんなことも分からない藤子はああ言うが、いざとなれば洋介を解任してアキが取り仕切ることも充分可能なのだ。
「あ〜あ、もうご飯いらないわ。私、外で食べてくるから。」
 一頻り笑い終えた後、藤子はそう言って席を立った。梓は慌てて盆に乗せた夕食を持っていき、不機嫌な藤子へと言った。
「今日は母様の好きなシチューを作りました。如何でしょうか?」
 そう言う梓を、藤子は思い切り顔を顰めて見るや、盆に乗った皿を手にして梓へと投げ付けた。
「ああっ!」
「いらないって聞こえなかったのかい!?もう、盆暗ばかりの家族だこと!」
 藤子はそう吐き捨て、さっさと外へと出て行ったのだった。
「梓や、早ぅ手ぇ冷やさんと!」
 アキはそう言って梓を流しへ連れて行き、水を出して手を冷した。そして布巾で服についた汚れを落としながら言った。
「爺さんとの約束で何も言わんできたが…もう駄目かも知れんなぁ…。」
「お婆ちゃん…ううん、私がどうにかしなくちゃならない事なのよ。お婆ちゃんがお爺ちゃんとの大切な約束を破るなんて絶対駄目。」
「梓…。」
 アキは泣きそうになるが、優しい孫の頭を撫でて「良い子だねぇ。」と言った。
 暫くして梓の手を拭いてやると、ふとアキは何かを思い出した様子で梓へと言った。
「そう言えば…隣の源さんに聞いたんだが、最近“願叶師"なるものが出るって噂があってなぁ。」
「“ガンキョウシ"…?」
 今まで聞いたこともない名に、梓は不思議そうに首を傾げた。
「願いを叶えると書くらしい。なんでも、それは依頼者の大切なもの一つと交換に、その者の願いを何でも一つ叶えてくれるというんだが…。」
「願叶師…。」
 梓は考える。もしそれが真実だとしたら、自分は一体何を対価として差し出せば良いのだろうかと。
「梓や、飽くまで噂だ。まぁ、本当に居ったら、この婆が叶えてやりたいがねぇ。」
「お婆ちゃん…有難う。その気持ちだけで充分だわ。」
 そう言い、梓はアキの皺だらけの手を握ったのだった。




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