第四話
V
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たのだ。
祖父の寅吉は店の再興直後、戦後の華々しい時代を見ずに亡くなった。
だから言うことを聞け…とは言えないが、洋介は無言で娘へとそう言っているに等しい。
そんな無言の父に、梓はそう言われていると考え、出来るだけ家には居たくなかった。
しかしながら、未だ十七の小娘が家を出ても暮らせようがない。
梓はアキから貰った大福を大切に持って部屋へ戻ると、机の引き出しから一枚の写真を取り出した。
「修さん…。」
それは想い人と一緒に写したものだった。
梓が想いに浸っていると、ノックも無しに不意に藤子が部屋へと入ってきた。
「何グズグズしてるの!それ…そんな写真、いつ撮ったんだい!」
そう言うや、藤子は顔を真っ赤にして梓の頬を思い切り引っ叩いた。そして倒れた梓から写真を引っ手繰ると、憎いと言わんばかりにそれを一気に千切って梓へと投げつけたら。
「何をするんですか!」
「この売女!お前はもう敬一郎さんのものなんだよ!こんなもん見てる暇がありゃ、さっさと敬一郎さんの夜伽の相手でもしてきな!」
「そ…そんな…酷い…。」
余りのことに、梓は顔を蒼くして震えた。だが、藤子はそんな梓を見てニタリと笑って追い討ちをかけた。
「そうだ…次の土曜、あんた敬一郎さんのとこへ行って夜伽の相手をしなさいな。敬一郎さんだって一度寝てしまえば直ぐに婚約、結婚と言うわ。梓、これは命令だからね。もし行かなかったら闇商人にでも売り飛ばしちまうから、覚悟しといで。」
嫌な笑みを零してそう言うと、「夕飯の支度しときな!」と捨て台詞の様に吐いて出ていったのだった。
唇を噛み締め、梓は泣かぬよう踏ん張っていたが、破られた写真を集めつつ、やはりその目から涙が溢れてくる。
耳を澄ませば、部屋の外から玄関の戸が閉まる音…どうやら藤子は出掛けたようだった。それを見計らったように、梓の部屋へとアキが心配そうに入ってきた。
「梓や、大丈夫かい?」
「う…うん…。」
そう弱々しい声で返す梓を、アキは抱き寄せて言った。
「ありゃ…鬼だ。爺さんが生きてたら…あんな女、絶対洋介の嫁になんぞさせんかったのに…。婆が悪いんだ。婆がもっと確りしていれば…。」
「お婆ちゃんの所為なんかじゃないわ!お婆ちゃんはいつも優しくしてくれる。修さんのことだって応援してくれてるんだもの…。これ以上言ったら罰が当たるわ…。」
そう言って涙を拭き、梓はアキと共に立ち上がって「夕飯の支度しなきゃ。」と言った。
「何でお前がこんな目に遭わなきゃならんのか…。」
悲し気にそう言う祖母に、梓は笑顔を見せて返した。
「まだ諦めてないわ。諦められる訳ないもの。」
「梓…。そうだ、その意気だ。」
力強く言った梓にアキも笑顔を作り、二人は部屋を出て下階へと降りたのだった。
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