第四話
V
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「只今戻りました。」
そう言って梓は家へ入ると、玄関口に継母の藤子が立っていた。
「随分と遅かったのね。」
「申し訳ありません。途中で天河先生とお会いしましたので。」
梓が頭を下げてそう返すと、藤子は眉を顰めて言った。
「あの胡散臭い大学教授と、一体なにを話したんだい?」
「今日はこちらの大学へ招かれて講座を開いていたそうで、そのお話しを少しばかり聞かせて頂いておりました。」
「そう。カステラは二本買ってきたのでしょうね?」
「はい、こちらに。」
そう言って梓が紙袋を差し出すと、藤子はそれを受け取って何も言わずに立ち去った。
藤子は後妻であり、梓にとっては継母なのだが、いつも万事この調子なのだ。当然、梓も快く思ってはいない。
しかし、それでも親は親であり、梓がそうした態度を見せたことは一度もなかった。唯一、許嫁のこと以外は…であるが。
そのためか、藤子は当初より梓に冷たく当たる様になり、彼女をまるで家政婦として扱う様になったのであった。
夫が一番の藤子にとって、前妻の一人娘である梓は目の上の瘤に等しい。いや、金の亡者である藤子には、先妻の子など早く厄介払いしたい…が本音なのだ。
だからこそ、許嫁の話はまたとない好機であり、資産家とのパイプラインに梓を使えれば、もっと金が入ると考えていた。一石二鳥…藤子はそれを狙っている。故に、言う通りにならない梓に苛立ちを覚えているのだ。
藤子が奥へ下がったのを確認すると、梓は深い溜め息を吐いて二階の自室へと向かおうとした。すると、藤子の部屋とは反対側の廊下の端にある部屋から呼ぶ声がする。
「梓や。」
「お婆ちゃん、何?」
呼んだのは祖母のアキであった。
梓が前に来るや、アキはニッコリと微笑んで小さな紙包みを梓へと渡した。
「豆大福だからお食べ。」
「有難う、お婆ちゃん。」
梓もニッコリと微笑んでそれを受け取る。すると、アキは梓を見て静かに言った。
「梓、負けちゃならないよ?今の世の中、女は強くなんなくちゃねぇ。」
「うん、そうね…。」
「修ちゃんのこと、応援しているから。」
アキはそう言って梓の手に自分の手を重ねた。
この家の中でアキは味方の一人であったが、今は亡き祖父の寅吉が生きていれば、恐らく許嫁のことを許す筈はなかった。
祖父母は時代に違えての恋愛結婚であった。その当時、それを押し切った二人はかなり騒がれたのである。片や八百屋の息子で、片や旧家の娘…釣り合いが取れぬと笑われもしていたが…。
一代で小さな店からそこそこの会社にまでしたものの、戦争で多くのものを喪って出直しとなったが、戦友でもある萩野亀五郎に助けられて店を再興した。父の洋介も戦争には行きもしたが、直ぐに終戦となり、その後に再興した店を守り立てるのに四苦八苦し
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