第四話
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その天河の問いに、梓は些か気不味そうに顔を伏せてしまった。
「余りうまくいってない様だね…。」
「実は…許嫁の敬一郎さんが…。」
「やはりそこか…。」
そう言って天河は溜め息を洩らした。
この梓と言う女性だが、この町にある松山商店の娘だ。商店…とは言っても、この町以外にも幾つかチェーン展開している会社であり、梓はそこそこのお嬢様でもある。
今二人が話しているのはこの事と関係があり、梓は許嫁となっている男性ではなく、他の男性を好いているのだ。謂わば政略結婚ではなく、自由恋愛での結婚を望んでいるのだが、これがまたうまくはいかない。
そもそも敬一郎と言う男性だが、彼は萩野財閥を取り仕切る萩野藤一郎の長男なのだ。萩野藤一郎と松山洋介は幼馴染みであり、お互いに子供が出来たら結婚させようと約束していた。その上、戦後に先代が萩野財閥から多額の借金をしていたため、断りようがないのが現状だった。
尤も、一番の原因は敬一郎が梓に惚れ込んでいることと言えるが。
「お待たせ致しました。パフェと珈琲でございます。」
三人が無言のまま考えを巡らせていると、ニコニコとお上がやって来て陽気な声でそう言い、梓の前にそれらを置いた。
天河はお上が喋り出すであろうことを察して、その前に自ら口を開いた。
「あ、ついでに私とこいつに苺のケーキをお願いしようかな。」
「有難う御座います!直ぐにお持ち致しますので!」
再オーダーに心ウキウキと言わんばかりに、お上は足取り軽やかにカウンターへと戻って行った。
「なぁ、グスターヴ。」
「…。」
「グスターヴ?」
「…。」
「おいってば!」
「あ…俺か。」
新聞を読んでいたグスターヴはやっと気付いた。時折、彼は自分の名前を忘れてしまう。だったら、もう少し覚えやすい名前にすれば良かったろうに…。 グスターヴは苦笑しつつ新聞を畳むと、再び天河を見て言った。
「で、何だ?」
「お前はどう思う?」
「どうって…ケーキか?俺はチョコ系が…」
「違う!」
天河がそう一喝したため、グスターヴは頬杖をついて返した。
「冗談だよ…。嬢ちゃんのことだろ?俺からすれば、この経済成長真っ只中で許嫁なんて古めかしいのはどうかと思うねぇ。好きな者同士でくっつきゃ良いじゃん。」
「グスターヴ…。」
余りに単純過ぎて話にならないと、天河は呆れて溜め息を吐いた。隣の席では梓嬢が見たこともない食べ物に四苦八苦しながら食しているが、どうやら気に入った様子だ。
ふと周囲を見回すと、先程よりも客が入って来ている。商売繁盛と言ったところだが、こちらはそうも言っていられない。
梓がパフェを食べ終わるまで、二人はお上が持ってきた苺のケーキと珈琲を口にしながら他愛ない話をしていた。
「不二家が一九二二年だったかに出した時
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