第四話
I
[1/5]
[8]前話 [1]次 最後 [2]次話
「いらっしゃいませ。」
ここは珈琲の薫る“喫茶バロック"。そう大きな店ではないが、そこそこ客の入る知る人ぞ知る店と言える。
「お席へご案内します。」
バイトの小野田は今日も張り切って仕事をしている。
彼女の場合、単に一目惚れの相手と働けるから…と言う非常に分かりやすい理由なのだが。
「ご注文がお決まりになりましたら、お声掛け下さいませ。」
そう言ってテーブルを離れるや、隣から「すいません。」と声を掛けられる。
「はい、ご注文はお決まりですか?それでは承ります。」
それが日常…だと、彼女だけは思っていた。
いや、それで良かった。好きな人と一緒に働ける…それだけで日々は光り輝いて見える。
そう、彼女はそういう単純明快な性格の持ち主なのだ。
「小野田、十一番上がったから持ってって。」
オーダーを厨房へ持って行くと、待ち構えていたようにそう大崎が言った。
「は〜い。」
小野田は直ぐに出来立てのオーダーをトレイに乗せるが、そこへ赤毛の男が言った。
「僕が持ってくから、君は休憩してきなよ。もうオーナーも仕事入ってるし、今の時間に休憩しとかないと休憩取れないから。」
「有難うございます。それじゃ、休憩お願いします。」「行ってらっしゃ〜い。」
赤毛の男…メフィストはニコニコしながらそう言って小野田を送り出す。厨房から釘宮の射すような視線に耐えながら、メフィストは笑顔を崩すことなく仕事に入ることに成功した。ここでしくじれば…後は地獄になるからだ。
一方、小野田はエプロンを外しながら事務所へ入ると、そこへ鈴野夜…彼女の想い人が困った顔をして立っていた。
「あ、鈴野夜さんも休憩ですか?」
彼女はちょっと嬉しくなったが、どうも違うらしい…。
「いや…制服のボタンがねぇ…。」
見ると、鈴野夜が着ている制服の上二つのボタンが取れていた。
「それ、良かったら私が着けますよ?ソーイングセット持ってきます。」
そう言って更衣室に入ると、直ぐにソーイングセットを持って出てきた。
なぜか嬉々としている小野田に鈴野夜は首を傾げたが、ボタンが着いてないと釘宮…オーナーにまた小言を言われてしまう。そのため、鈴野夜はそのまま上着を脱いで小野田へと渡した。
「鈴野夜さん…下にシャツ着なくて良いんですか…?」
「え?だって暑いじゃないか。」
「そりゃそうですけど…。一応、私も女の子なんですよ?」
「別に全裸じゃあるまいし、どうってことないだろ?」
意外とデリカシーの無い鈴野夜も、小野田フィルターを通せばワイルド系…と言う風に映る。
小野田は多少顔を赤らめながらも、手際よくボタンを縫い付けて行く。
しかし、どうしても鈴野夜へと視線がいってしまい、危うく指を射すところだった。
- 鈴野夜さんって…以
[8]前話 [1]次 最後 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ