結局のところ鷹巣隆也はわからない
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めていく。
誰も一言も発しない空間。そこは俺にとって心地が良いものに感じた。思えば今まではこんな時間は家でしか味わうことが無かったのだ。ぼっちになる前は意味が有ったかどうかは別としてほとんどの時間友達とも呼べないような誰かと一緒にいた気がする。だからこうして一人でいる時間は無かったように思う。誰かと一緒にいるというのは何だかんだで気を使ってしまってとても安らげるような場所では無い。その点一人ならば何も気兼ねが無いので落ち着くことができる。いや、正確には今も一人ではない。実際この部屋には俺の他に二人の少女がいる。しかし、今はさして気を使うようなことは無い。一体何故かと考えるとそれはこの三人が独りであることなのだと思う。
例えば電車に乗った際に隣の人に気を使う事はまず無いだろう。少なくとも俺は気を使わない。中には気を使って席を譲ったりすることは有っても言葉が無いからと言って会話をするような事等は有り得ない。
詰まるところ比企谷と舞浜は電車で隣り合わせた人の様な物なのだ。なるほど、気を使わなくて済むわけだ。
もし、この空間が電車の中と変わらない空間だとするならばこの心地よいと感じた心境は実は違うものなのかもしれない。それはただ、何も無い無変化な時間。ただ通りすぎるだけのその時間は俺がかつて信じてきて、そして手放した物と何が違うだろう。
俺は余計な思考のせいで頭に入らなかった部分を文庫本のページを戻して読み直した。
そんな時間が暫く続いているとドアをノックする音が聞こえた。一言も喋らない空間では自然と音がハッキリと聞こえる。
ノックを聞いた比企谷が軽い感じで声を出した。
「どぞー」
比企谷の言葉から一瞬の間の後男性の声が聞こえてきた。
「失礼します」
そう言って入ってきた男性は、短く切った黒髪に、えーとうん。特徴はそれくらいです。特徴が無いのが特徴みたいな人が入ってきた。
「大志くん!いらっしゃい」
比企谷の明るい言葉に大志と呼ばれた男は「うす」と軽く頭を下げた。
こいつどこかで見たような気がするんだがはて、誰だったか。
俺があれこれ考えているうちに舞浜がパタンと本を閉じた。
「一体何の用かしら?」
舞浜の言葉に大志がまたもや「うす」と頭を下げてから説明し始めた。
「最近高校生活を振り返ってていう作文が有ったじゃないっすか」
大志の言葉に俺を含めた三人とも頷く。特に俺なんかは再提出を命じられているのでかなり身近な話題だ。そうでなくても皆一度は授業で書いているだろうから記憶には残っているはずである。
俺たちの反応を確認した大志は更に続けた。
「それで授業中に書き終わる事が出来なかったので完成させるために手伝ってほしいと思って来たっす」
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